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想いを綴った所で
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想いを綴った所で、この想いの真意はあの人には届かないだろう。
『幼い時の私に、沢山の思い出をありがとうございます。ランゼルト様は私を救ってくれた唯一の存在です。貴方が例えその事を全て忘れてしまっても、私は何があっても忘れません、アキツシマがアキツシマである限り……あの時の思い出と共にお傍におりますので、どうかこれからもずっとお傍に置いてください』なんて、ランゼルト様にお伝えした所で……。
どう言う事だと不思議がるような顔をして、こう返すだろう。
「アキツシマ? 何だこの手紙は? 僕はまた君を困らせる事を知らぬ間にしてしまっていたのか?」と私を心配して。きっと彼は言うだろう……。
──そしてその行動こそが、私を困らせる事だと知らずに。
優しい彼は私に過去の出来事を聞く、私だけが憶えている大事で大切なあの日々を……。
私にあの時してくれた貴方が、私にあの時を問いかける。
嗚呼なんでこうも、創造主様は意地が悪いのだろうか。
──此処まで、酷い事をなさるのに。
何でこの私を創られたのだろうか……?
それとも虐める為だけに、私は創られたのだろうか。
×××
「……すまない。アキツシマ」
手に取っている、今にでも崩れてバラバラになりそうな日記帳を見つめながら僕はそう呟く。
──僕がこの世界で最も深くし愛し、そして今も最も近くに居るのに居ない彼が綴った想いに返すように。
そして、この想いを書いた時の君の気持に寄り添うように。
「本当に創造主様は、意地が悪いよね。今度は君が私を(ランゼルト)忘れるなんて、酷すぎるよね。しかも名前も性格も変えられちゃうなんて……」と言って、近くの黒いソファでスースーと寝息をかいている。
黒髪蒼目のアキツシマで在った筈のヴィクトルの頭を数回、猫をなでるように優しく触れてから。
「……あの時の君の気持が、今やっと分かったよ。ごめんねアキ……こんなに悲しくて、苦しいなんて。君に忘れられてやっと気づいたよ」と、此処に居て此処に居ない、最愛の君には今は届かない謝罪を、小さな声で。
静かに眠る君を起こさないように、呟いた。
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