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野良猫6
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猫が走るように、音もなく素早く走る少年を
シンジは息を切らせながら見ていた。
さっきまで身体に大きな針が何回も
突き刺さるような痛みを感じていたのに
走っている時は何も感じなかった。
ただ、少年を追いかける、
その気持ちがシンジを支配していた。
上がる息、辛いと悲鳴を上げているのに
まだ右、左へと進む脚を連れて
ただ目の前に見える少年を追いかける。
少年の着たボロがふわふわと風に揺れる。
走り出してから気づいたが
少年はカランコロンと下駄を鳴らしながら走っていた。
懐かしい音だとふと思いながら
素早く走る少年を追いかける。
「おい!」と掠れた声を出すも
少年には届かずに足ばかりが動かなくなってくる。
すると少年の行く手を阻むように、
左へ曲がった路地が行き止まりになっていた。
「はぁ、はぁ、追いついたぞこの野郎、」
少年は悔しそうな目でシンジを睨み、への字に歪ませていた口を恐る恐ると開いた。
「………お、お前も!あいつらの仲間なんだろ!」
「はぁ?お前何の話を…?」
「すっとぼけんなよ!!」
少年は声を荒らげ握り拳をぎゅっと作っていた。
「わかった…お前らがその気なら…俺はここで死んでやる!!!!」
「なに!?何の話かわからねぇけど、一旦落ち着け!!」
「俺が居たから!!母さんは苦しい思いをしてたんだろ!!!俺が居なくなればいいんだろ!!!」
目に涙を浮かべながら力強く話す少年に
シンジは同情のような、助けてやりたいような
頭を撫でてやりたいような気持ちに駆られた。
すると勝手に足が少年の方へ向かっていっていた。
「や、やめろ!来るんじゃない!やめてくれ!」
必死で抵抗する少年にゆっくりと近づき
そっと抱きしめた
「なんの真似だよ…お前ら…俺のこと嫌いじゃ…」
「相変わらず何言ってるかわかんねぇけどよ、おめぇみてぇな毛の生えてないガキが死ぬとか簡単に言うんじゃねぇよ」
少年の体の力がスっと抜けたように
握り拳が解けていく。
何かが切れたように音もなく涙が溢れ出していた。
「くせぇなお前、何日風呂に入ってねぇんだ?」
「そんなのわからないよ、忘れた」
「細ぇなあ、メシ食ってねぇのか」
「いつから食べてないのかわからないよ」
鼻をすすりながら涙ぐむ少年の頭を
シンジは優しく撫でる。
「死ぬ死ぬって、人間いつか死ぬもんなんだ、急いで死ぬことはねぇよ。どうしても死にてぇって言うなら、風呂はいって体綺麗にして飯食って胃の中埋めてふかふかの布団でたっぷり寝てからでもいいだろ?」
嗚咽しながら泣く少年をしばらく抱いていると、
少年はスっと寝てしまっていた。
細い体いっぱいに抱えきれない気持ちを背負って街の片隅に今まで居たのかと思うと、シンジは胸が締め付けられるような思いでいた。
「シン!早いなぁ、お前怪我してるのに、そんなに走ったら傷が開いちゃうよ……ってあれ?その子捕まえたの?」
「しー、今寝たところだ」
「ハハッ、子育てみたいだ。ここの路地抜けた所に車あるから、早くその子も乗せてやってよ。どうせお前のことだからその野良、持って帰るんでしょ?」
春臣は薄くため息を付いたあと、またシンジに肩を貸して3人で車へ向かった。
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