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season #52
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次の日、サッカー部の部員達が水場にやってくると、
智が居場所がなさそうに立っていた。
白いシャツに、長めの髪が陽に透けて、部員達にはにかんだ様に笑いかけると、
部員達は相手が男だとわかっていてもドキッとする。
一人の部員が声をかける。
「あ、修だろ?あいつ、ボール片付けてたから、もうすぐ来るよ。」
「……ありがとうございます。」
智がふにゃりと笑うと、みんなポワ~ンと智を見つめる。
そこへ修がやってきた。
「…!……智?」
智に気づいた修が、智に駆け寄って行く。
「……どうしたの?」
思ってもいなかった智の出現に戸惑いを隠せない。
「うん。……ちょっと時間ある?」
智が上目遣いで修を見る。
その可愛さに、今まで凹んでいたのも忘れて気持ちが踊る。
修は、ハッと気づいて周りを見回す。
みんなが二人を見ている。
いや、二人というより、智を見ている。
その目は、明らかに男を見る目ではない。
修は智を隠すようにクルッと後ろに向けると、
「俺、ちょっと用事があるから。」
部員達にそう言って、智を抱えるようにその場を後にした。
「先輩に怒られんぞ!」
後ろから、二人を追いかけるような声と、笑い声が聞こえてくる。
修は、怒られるくらいで済むなら、喜んで怒られるよ!と、心の中で叫んだ。
二人は歩いて中庭に向かう。
中庭は、夏でも日陰があって風が通る。
修は智に話しかけてもいいものか、考えあぐねていた。
何か話しがあって来たはずなのに、智は黙ったまま何も言ってくれない。
修は、智が話してくれるのを待つことにした。
二人が黙ったまま歩き続けると、すぐに中庭に着く。
いつもランチを取るテーブルとは別の、木の下のベンチに腰を下ろす。
夏休みのせいか、時間のせいか、人影はなく、話をするにはうってつけだ。
「あ、……あのね……。」
智が思い切ったように話し始める。
「うん?」
聞きたいことは山ほどあったが、修はできるだけ穏やかに
智の話を聞くことにした。
「修君……ごめんなさい。」
智がいきなり頭を下げた。
修は何がなんだかわからず、おろおろする。
「え?あ、え?何?何がどうした?」
修の慌てぶりに智が顔を上げる。
「なんで謝るの?」
修が大きな目をさらに大きくして、目をパチクリする。
その様子がおかしくて、さっきまで緊張していた智の心がほぐれていく。
「だって……修君にひどいこと言って……。」
「ひどいこと?」
「うん……。」
智が下を向いて、足を揺らし始める。
「え?俺、ひどいことなんか言われたっけ?」
「……イヤって言って逃げちゃったり……。」
「ああ……。ひどくはないよ。」
修は優しく微笑んで智を見つめる。
「ひどくはないけど、何がイヤなのか、教えてくれる?」
「それは……。」
智は足を揺らしたまま、地面を見つめる。
修にイヤの理由など、言えるわけがない……。
でも何も言わないのも……。
智は必死で考えて、ごまかすよりは言えるとこまで言おうと思った。
「なんか、修君の……見ちゃいけないもの見ちゃったみたいで……。」
「え?見ちゃいけないもの?」
修はまた目をパチクリする。
「うん……。」
「先輩と一緒の時?」
「うん……。」
「……Tシャツ、脱いでたから?」
「……わかんない。修君の裸なんて見たこといっぱいあるのに……。
だから、おいらが悪い。ごめんね。」
「じゃ、階段の時は?」
「あれは……。」
触れられて、意識したなんて言えっこない。
智の足が大きく揺れる。
「本当にごめん。」
言うと同時に足を止め、修の方を向く。
その目は潤み、眉尻は下がり、子猫のように小首を傾げている。
「許してくれる?」
「許すも何も……。」
修は智から視線を逸らす。
このまま見つめられ続けたら、理性の崩壊も時間の問題だ。
「俺は怒ってないから。」
「うそ……本当は怒ってるよ……。だって、おいらを見てくれない。」
「それは……。」
修はチラッと智を見て、また視線を外す。
そんな顔、マジで見たら3秒もたないから!
そう思っても、智が黙って修を待っているのがわかると、
修はため息をついて智の方を向く。
無心だ……無心になるんだ。
「怒ってないよ。」
修は笑顔で智を見る。
「うん……わかった。……でもなんか、修君、洋服屋さんの店員さんみたいな顔。」
うふふと、智が笑う。
その顔に安心して、修も笑う。
誤解が解けて、本当によかったと修は思った。
え?誤解……?見ちゃいけないものって……。
ちょっとは意識してくれてるってこと?
いやいや、何でも自分に都合よく考えちゃダメだ。
先輩の筋肉にびっくりしただけかもしれない……。
修はそれでも嬉しくて、智に向かって微笑んだ。
智も修の笑顔にホッとする。
「じゃ、俺、部活戻るわ。」
修はゆっくり立ちあがると、智の頬を撫でた。
「ほら、髪の毛食べてる。」
風に揺れた髪が、智の唇の端に張り付いていたのを、指で撫でるようにはがす。
修は笑顔を残して、走って部活に戻って行った。
残された智は、頬から広がる熱のせいで、さわぐ鼓動に戸惑っていた。
「おいら……修君と旅行に行って……大丈夫なんだろうか?」
智は青空を見上げて、大きく息を吐いた。
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