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season #79
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5人は電車の中でも幽霊の話で持ちきりだった。
「でもさ、俺らが島に行ったから、成仏できたんだよね?」
雅範が鞄からお菓子を取り出す。
「でも、もしかしたらそのまま智が取り憑かれちゃったかもしれないし……。」
淳一が雅範のお菓子を一つ取り、口へ運ぶ。
「それは万が一でもダメだ。」
修は腕組して考える。
「本当に幽霊だったんですかね……。」
和哉は頬杖をついて、窓の外を見つめる。
「だから、おじさんだって言ってたじゃない!幽霊だって!」
「幽霊だと、確信持てる場面は雅範しか見てないんですよ?」
和哉が、ふんっと鼻を鳴らす。
「幽霊だったんだってば!」
雅範が叫ぶと、智がにっこり笑う。
「マー君がそう言うんだから……きっと、そうなんだよ。
おいらもその場面見たかったな……。」
修は淳一と智がキスしていた場面を思い出す。
「いや、智は見なくてよかったよ。」
和哉と雅範が大きくうなずく。
「俺はやっぱり……もったいなかった!」
淳一が智の手を取って見つめると、修がその手を引き離す。
「いや、記憶がなくてよかった。」
修がうなずきながら言う。
「?」
智は首を傾げ、みんなを見回す。
「いやぁ、盛りだくさんの旅行でしたね。」
和哉は笑って雅範のお菓子を一つ摘んだ。
駅まで送り、宿に帰るとおばさんが玄関を掃除していた。
「みんな楽しそうに帰っていったよ。」
「それはよかった。」
おばさんがにっこり笑うと、年配の男の人が宿から出てくる。
「いやぁ、ありがとうございました。」
おじさんが声を掛けると、年配の男の人はニヤッと笑う。
「いえいえ。どうでしたか?少しは懲りてましたか?」
「どうでしょう。でも若い子に頭ごなしに怒っても聞いてくれませんからね。」
「あんた、何かあったの?」
おばさんが聞くと、
「いやね、昨日、あの子達が島に行って帰ってこなかっただろ?
ちゃんと懲りてるかなと思って、念押し。」
おじさんと年配の男の人が、顔を見合わせて笑う。
「何したの?」
おばさんが訝しそうにおじさんを睨む。
「この人ね……昔は結構ならしたマジシャンだったらしくてね、
軽く催眠術で……。」
おじさんが笑う。
「いやいや、お役に立てたならよかった。でも久しぶりだったもので……。
かかりやすそうな子だけでなんとか……。」
「あんた達、何したの!」
「幽霊をね……むふふふ。」
おじさんはおかしそうに笑い、
「淳一はかかりやすかったですか?」
「淳一君?」
「一番彫りの深い、男前なんですけどね。私の甥っ子。」
「ああ、あの子はわりとかかりやすかったですね。
疑り深い子はかかりにくいし、意思の強い子もね……。
あのひょろっとしたお兄ちゃんは非常にかかりやすくて。」
年配の男の人も思い出して笑い出す。
「見てましたよ。影からこっそり。淳一が厨房に来たから、もしかしてと思って。
見れると思わなかったから、ラッキーでした。」
おじさんも楽しそうに笑う。
「雅範君はかかりやすそうですよね。あ、ひょろっとした、智君を呼びに行った子です。」
「ああ、あの子は本当にかかりやすかった!しかも信じやすい。
あの子なら、本物も寄ってくるかもしれない。」
年配の男の人がクスクス笑う。
「あの、女の人が取り憑いた役の智君も。」
「素直そうですから。すぐにこの二人で話を作ろうと思い立ちました。」
「最初は何してるのか全然わかりませんでしたよ。」
「ははは。そりゃそうでしょう。雅範君はボーっと立ってるし、二人は倒れてるし。」
「あんなんであの子達、だまされちゃうんですねぇ。」
「淳一君……でしたっけ?彼が来た時は驚きましたよ。
で、急遽参加していただくことにして……。」
「淳一がかかるのが意外でした。」
「実際、催眠術をちゃんとかけたのは雅範君だけですから。
残りの二人は眠ってもらっただけ……。」
「あ……子供たちの術は解けてるんですよね?」
おじさんが、心配そうに年配の男の人の顔を見る。
「もちろん。二人の唇が離れたら術が解けるようにしてあります。」
年配の男の人は、体に響く、いい声で笑った。
「でもわざわざキスさせることもなかったでしょうに。」
「あはは。目が覚めた時、男同士でキスしてたらおもしろいでしょ?」
「あんた達……本当に人が悪い。」
おばさんは呆れたように笑い、宿に戻っていく。
おじさん達の楽しそうな笑い声は、しばらく玄関先で響き渡った。
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