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episode.08 明希ちゃん
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〜恋side〜
8月2日 水曜日 ファミレスR
「……なぁ、明希。」
「ん?」
恋はバイト先であるRで、客として食事をしていた。
前には明希が座っている。
「俺さ、今恋人いるんだよね。」
「へぇ……って……は?!恋頭打った?え?なんで?恋愛嫌いの恋が?え?なんで?」
明希は明らかに混乱している。
「いや、本当の恋人じゃなくて、契約恋愛してるんだよね。」
「恋……たまに本当にぶっ飛んだことするよね……」
「そう?暇つぶしくらいになりそうだなって思ってさ。」
「で、詳しいことは後でじっくり聞かせてもらうとして、何か相談したいんでしょ?」
明希はゲイだ。それを知ったのは恋が17歳になったばかりの頃だった。
明希がカミングアウトしてきた。恋には隠しごとをしたくない、と明希は言った。恋もその時にBL男優をしていることを言った。つまり2人の間に秘密はない。恋の過去のことすら、明希は知っている。
おそらく、恋が唯一心を許している人間だろう。
「相手男なんだな?俺に言うってことは。」
「まあ……今、明希は恋人いるの?」
「いないけど……」
「明希ってネコだっけ?」
「うん。」
「じゃあ俺と同じだよね……なんか、何したらいいかわかんないんだよ。」
「え?恋のことだから契約したときに何するか決めたんじゃないの?」
「そりゃ決めたんだけど……なんか、進みが遅い。」
「…つまり恋はエッチしたいの?」
「は?なんでそうなるの?」
「え?だってそういうことじゃないの?」
「ある意味間違ってないのかもしれないけど……俺の仕事柄のせいなのかもしれないんだけどさ……セックス以外はわかんないんだよ。」
(恋って、すんごい不器用だよなぁ……)
明希は頬杖をつきながら目の前の友人をじっと見る。
「セックスしないってなったら、俺なんもできないから。だからこの前弁当作ったんだけど……そしたらそれは喜んでくれて……でもそれって恋人のやることなのかな、とか思ったりしてさ。」
明希に向かって話しているのか独り言を呟いているのかわからない。
「赤津さん……あ、相手の人なんだけど、なんか、俺が思うにすごい優しい。」
「……なんか珍しいな。お前から他人のこと話してくるなんて。」
「……ん?それは、契約相手だからだし。」
「完璧割り切ってんね。なのに悩むの?」
「お金、しっかりもらってるから。やるからにはきっちりやりたい。でもやり方がわからない。優しすぎる。」
「具体的にどんな感じなの?」
「まじで何にもしてこない。手も握ったことないし、キスもない。当たり前だけどセックスもしてない。」
「……恋、そろそろ周りの目が痛いからオブラートに包んで。」
「え?セッ……」
「だぁぁ!だから言うなって!」
「悪い悪い。」
「もとい、ボディタッチなしってこと?」
「いや、一緒には寝てるから……」
「は?!一緒に寝てて手出してこないの?紳士?それともED?」
「EDではないよ?朝勃ちしてたし。」
(それがわかるくらいは密着してんのな……)
「あ、あと……」
恋は頭を押さえる。
「頭、なでられた。」
「へぇ……抱きしめられたことは?」
「……ないけど?頭なでられたのも一回だけだし。」
「ふーん……」
「あれ、恋くん?」
2人の横から声が聞こえ、2人は顔を上げる。
「木之本さん。」
「おー!こんなとこで会うなんてな!近所なの?」
「まあ、近いですよ。あれ、今日は赤津さんと会うんじゃないんですか?」
「琉の仕事長引いちゃって。コーヒー飲んでた。」
「そうでしたか。」
「恋、誰?」
「あ、えーと……赤津さんのお友達の、木之本さん。」
明希に聞かれてそう答える。
「どうも!木之本翔也です。」
「初めまして。恋の友人の上原明希です。」
「明希ちゃんね!よろしく!」
「な、なんでちゃん付けなんですか?」
「ん?なんとなくかな……?深い意味はないけど、ちゃん付け嫌い?嫌ならやめるよ。」
「いや、女みたいだからとかいう理由じゃないならいいです。」
「そういうんじゃないよ!」
初対面から木之本は積極的なタイプのようだ。
恋も最初に会った時、テンションの高さに驚いた。
「あ……よかったら一緒にどうですか?」
「ありがたいけど、もうすぐ琉と落ち合うから。」
木之本は時計に目をやる。よく見ると木之本はもう帰り支度をしていて、伝票を手に持っていた。
「あ、明希ちゃん、LINEやってる?」
「やってますけど……」
「じゃあLINE交換しよ!あ、恋くんから送ってもらおうかな。」
「明希がよければいいですよ。」
「いいよ。送っといて。」
「わかった。じゃああとで送っときます。」
「よろしくー!じゃあ俺もう行くわ!また今度な。」
木之本はそう言うとさっさと行ってしまった。
木之本はメガネにマスクだったが、それだけでなかなか分からなくなるものだと恋は思った。
「……てか、あの人俳優の木之本翔也?!」
明希は控えめながら驚きの声を上げる。
「あ、うん。」
「てことは恋の契約相手って……赤津ってことは、今をときめく若手俳優の赤津琉?!」
「そうだけど。」
「まじか……」
「あ、明希、ちょっとこのあと付き合って。」
恋は時計を見やる。
「なんで?」
「スーパー行きたい。1人2個までの卵のセールあるから。」
「はいはい、俺も2個買えばいいのね。」
「お金はあげるから。」
「それはどうでもいいんだけど……それこそ赤津さんと行きゃいいじゃん?」
「……そういえば俺、赤津さんと2人で出かけたことない。」
「まじか!デートもなし?!」
「まぁ……いや今はそれより卵のセール!」
恋はそういうと立ち上がり、伝票を持って会計に向かった。
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