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episode.21 火傷
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〜恋side〜
「青木くん、キッチン入ってくれる?」
「はい。」
2泊3日の旅行から1ヶ月近く経った。9月も末に入り、少しずつ涼しい日も増えてきたある日の夜。
恋はファミレス「R」でアルバイト中。ここ数日、男優業も含めて仕事三昧の日々を送っている。
一方の赤津は9月の半ば頃から、遅れていたドラマ撮影ーこの契約恋愛が始まる所以となったドラマだがーが始まり、最近はなかなかゆっくり話せていない。生活時間が被らないのだ。
あの旅行から変わったことといえば、赤津とのスキンシップが少し増えたくらいで、帰ってきてからはあまり行為に及んだりはしていなかった。
また、赤津との行為では呂律が回らなくなるほど感じてしまう恋だったが、仕事では前と変わらず、快感を得るようなこともなく、やはり痛いことが多かった。
「あっつい……!」
「青木くん大丈夫?!」
ぼーっとキッチン作業を行っていた恋は鉄板を左腕に当ててしまった。
「冷やしたほうがいいよ!」
「すみません。」
当たったところがヒリヒリと痛む。
「痕にならなきゃいいんだけど……」
社員は心配そうに恋の腕を確認する。
「大丈夫ですよ。」
結局、恋はそのまま1時間働き、上がりの時間の頃には当たった場所は赤黒く腫れ上がっていた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ。腕大丈夫?」
「はい、家に帰ってどうにかします。」
「お大事にね!」
「はい。失礼します。」
恋はファミレスを出て歩き始める。家まではそう遠くない。
思った以上に腕はヒリヒリと痛んだ。
しばらく歩き、家に着く。赤津はもう帰宅しているようで、明かりがついている。
「ただいま。」
「おかえりー!」
リビングの方から赤津の声がする。料理でもしているのだろうか、こちらに来る様子はない。
恋はリビングに向かう。
「いい匂い……」
部屋の中にはほんのり甘い香りが漂っていた。
「お、おかえり!悪いな、手が離せなくてさ。」
赤津はエプロンもせずに夢中で何か作っている。
「なに作ってるんですか?」
「野菜炒めと、こっちが……」
赤津はフライパンの蓋をあける。
「パンケーキ?」
「そう!ふわふわのパンケーキ!作り方調べて作ってみた。俺料理はうまい方じゃないからちゃんとできてるかわかんねえけど。最近恋との時間少なかったし、たまにはこういうのもいいかなーって。」
恋の頬が少し緩む。
恋は甘いものが大好きなのだ。
もっともそれを知っているのは明希くらいのもので、赤津は知らずに作っているが。
「なんか嬉しそうだな?」
「甘いもの、好きなんです。」
「なんだよ、言えよー。いくらでも買ってきてやるのに。」
「わざわざ言わなくてもいいかと思って。」
「ま、これからはちょくちょくなんか買ってきてやるよ。まだ出来ないから、風呂入ってこい。」
「はい。」
「……お、おい!恋、その腕どうした!」
赤津はちらっと振り返ったかと思えば、突然恋の右腕を掴んだ。
「へ?」
「左腕だよ!どうした、怪我か?火傷?」
「あ、今日バイトで火傷しちゃって。」
「腫れてんじゃん!ちょっと待ってろ、今氷持ってくる。」
赤津はそういうとビニール袋に氷を入れて持ってきた。
恋はソファに座らせられた。
「ん、手出せ。」
「自分で冷やせますよ。」
「いいから。」
恋は左腕を赤津の方に出す。
赤津は袋をゆっくりと当てがう。
「つめたっ!」
「我慢。」
「大丈夫ですよ、これくらい。」
「だめ。今冷やしとかないと後で辛いぞ。」
「わかりましたよ……自分でやりますから、赤津さんは料理続けててください。」
「いいの、俺が心配だから。」
「これくらいなら多分痕も残りませんよ。」
赤津はちらりと恋と目を合わせる。
赤津はソファの前にしゃがんでいるせいで、いつもとは異なり、赤津が恋を見上げる形になっている。
「赤津さん……?」
「……じゃ、ちゃんと冷やしとけよ。」
赤津はそういうと袋を恋に持たせ、自分は立ち上がる。
「……?はい。」
(今の間はなんだ?)
恋が不思議に思っていると、赤津の手が頭に乗せられた。
「無理すんなよ。あんまり仕事ばっかしてると体疲れるだろ?」
赤津はそう言って優しく頭を撫でた。
「大丈夫ですよ。」
「きついと思ったらすぐ休めよ?」
「わかりました。」
赤津は恋の返事を聞くと満足そうにキッチンに戻る。
(……久しぶりに体の心配なんてされた。)
両親が死んでから、恋のことを気にしてくれる人は明希くらいで、人から体調の心配などをされたのは久しぶりだった。
(赤津さんこそ、体平気なのかなぁ……)
恋はふと、赤津のことが心配になる。だがすぐに、それを気にするのは自分の役目ではない気がしてやめた。
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