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episode.32 望むことを
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〜明希side〜
「ん、んん……」
明希が目を覚ますと、木之本が隣でうとうとしていた。
「明希ちゃん!気がついた?ちょっと待ってて恋くん呼んでくるから!」
明希が起きたことに気づいた木之本はドタバタと階段を下っていく。明希はまだ状況が理解できていなかった。
ドタガタガッシャーン!と突然大きな音がして明希はビクッ!と肩を震わせた。
「な、何事……?」
明希は体を起こすが、体がだるく、動けそうになかった。
どうやら自分が着ているのは恋の服で、寝ているのも恋の家のベッド。ということはここは恋の家。そして木之本がいたということは、おそらくモールから運んでくれたのは木之本。
と、そこまで明希が理解したところで恋が上がってきた。
「明希、大丈夫?」
「ちょっとだるい……ていうかさっきものすごい音したんだけど…」
「あー、木之本さんが階段駆けおりるから、降りたところで滑って転んで……それに驚いた赤津さんが皿落として割った。」
恋はクスクスと笑いながらそう言う。
手にはタオルと氷水の入った洗面器を持っていた。
「熱計って。」
「熱……?あー、だから体だるいのか……」
「木之本さんが風呂入れてくれたけど、体洗いたい?」
「ううん、いい。木之本さんに謝んないと……」
「今打ったところ湿布貼ってもらってるから後で呼んでくるよ。ご飯は食べれそう?タマゴ粥作ったけど。」
「ごめん……ありがと……」
「謝んなって。お粥後で持ってくるから、食べたら薬飲んで寝ること。明日大学は?」
「あるけど……多分単位足りるからちょっと休む……」
「ん、そうしな。うち泊まっていいから。1人じゃ何もできないだろ。」
「え、でも……赤津さんいるし……」
「赤津さんも心配してるから。もともと今日は木之本さんと明希が泊まるだろうって考えて準備してたから大丈夫だし。」
「ありがと……」
「……大丈夫か?」
この大丈夫か?というのは、体のことではないと、明希はわかった。
「わかんない……傑に、あった……」
「うん……木之本さんから聞いた。木之本さんがすごく心配してた。」
「うん……木之本さんが、助けてくれた……けど、すごい怖い……また連絡するって、言ってきた……」
明希はぎゅっと布団を握る。
「なんかあったらすぐ言って。赤津さんも木之本さんもいるし、きっとどうにかなる。」
「うん……」
「じゃあ、お粥あっためてくるから。」
恋はそういうと部屋を出て行く。それと入れ違いになるように木之本が部屋に入ってきた。
「明希ちゃん、大丈夫?」
「あの……ごめんなさい……」
「なんで?謝ることないよ。」
「その、俺……」
言わなければ。話さなければ。そう思えば思うほど言葉が出てこなかった。木之本が嫌なわけではない。むしろ、好印象だ。だが、話せなかった。
「無理して言わなくていいから。なんかあったんだろうってのはさすがにわかっちゃったけど。でも、明希ちゃんが話してもいいって思うまで、聞かない。」
「木之本さん……」
なんとなくわかっている。多分、恋からある程度の話は聞いているだろう。もしかしたら全て聞いたかもしれない。あれほど取り乱したのだ、木之本も気になっただろう。
でも木之本は、何も知らないふりをしてくれるつもりらしい。明希が自分から打ち明けるのを、待つという。
「ねえ、明希ちゃん。俺たちも契約しない?」
「え……?」
「明希ちゃん、俺と付き合ってみない?お金もなし、条件もなし。ただ俺が、明希ちゃんの彼氏でいたいだけ。明希ちゃんが好きになってくれなくてもいいし、俺も押し付けるつもりない。キスとかセックスとかする気もない。どう、かな?」
木之本の声はとてもとても優しかった。
でも1つ気にかかった。なぜ、わざわざ契約にするのか。
「どうして、契約なんですか……?」
「その方が気楽だろ?明希ちゃんが気使うことないかな、って思ってさ。」
ああそうか、この人は本当にわかってくれようとしているのか。
明希はそう思った。
恋に言ったことがある。愛を忘れたい、と。
契約なら、愛がなくても、関係を持てる。
この人はそれをわかっていて、契約にしようと言っているのかもしれない。
「……でも俺、きっと期待に応えられません。」
「明希ちゃんは、俺のことどんな人間だと思ってる?」
木之本は優しい笑顔のままそう聞いてきた。
「え、優しくて……周りがよく見えてて……俳優としての演技力もあって……」
明希は素直に思っていることを言った。
「俺は明希ちゃんが思ってるほど、いい人ではないよ。それに、俺は完璧な人間ってわけでもない。」
木之本は微笑んでいる。
「少し俺の話しようかな。俺のお母さんは、本当のお母さんじゃないんだよね。」
突然の発言。明希は驚いた。
「俺の父さん、再婚してるんだ。今の母さんとの間に子供もいる。俺の母さんは病気で死んだんだけど、父さんには幸せになって欲しかったし、俺は今の母さんにちゃんと愛してもらってると思ってる。」
そう言う木之本は相変わらず優しい笑顔だ。
「弟も俺に懐いてくれてるし、バイセクシュアルな俺のこと、家族みんな理解してくれてる。どう?少し驚いた?」
明希は頷く。
てっきり、バイセクシュアルなことは隠していて、でもきっと幸せな、すごく普通な家族なんだろうと思っていた。
「父さんは警視正だから、言っちゃえばエリートだけど、ちょっと変わってるから。」
木之本はそういうと、なんだか楽しそうに笑った。
自分と同じ境遇。義理の母親に、兄弟。エリートの父親。でも自分とは全く違う。
「でも完璧ってわけじゃないんだよ。多分最初は母さんのことめちゃめちゃ傷つけたし、父さんにも迷惑かけた。でも、俺のこと受け止めてくれたから。弟ができた頃には、俺も母さんのこと、母さんって呼べるようになってた。おめでとうって祝福できるくらいになってた。」
木之本は簡単に言っているが、それがどれほど大変なのかは、明希には痛いほどわかる。
そしてそれがうまくいかなかった時のことを、明希は知っている。
「まあ、こんなこと話したからってなんなんだよって感じだろうけど、俺は、明希ちゃんに何があってもそうやって、俺の母さんみたいに受け止めたい。全部を包み込んであげたい。契約中の俺の役目は、それかなって、思ってる。」
「……でも、俺……どうしたらいいのか……」
「明希ちゃんは何もしなくていいよ。そうだな、強いて言うならしたいことをしてくれればいい。甘えたかったら甘えて。デートしたかったらそう言って。ワガママでも構わない。何か話したくなったら聞くし、さっきキスとかしないって言ったけど、明希ちゃんが望むならやる。」
どうやら木之本はどこまでも明希に合わせてくるつもりのようだ。
「でも、嫌なら嫌って言っていいんだよ?」
「いえ!やりたい……です。」
明希は、少しだけ、もう少しだけ、木之本のことを知りたくなった。
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