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episode.44 9年前のその日
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※明希の"なんでこんなことに"というつぶやきに対する、琉と翔也視点での過去回想。日付に注意してお読みください。
10月26日 事故の2ヶ月前。
「話ってなんだよ?」
琉は翔也に呼び出され、カフェにいた。
「家じゃ話せねえの?」
「恋くんのことだから。」
「恋の……?」
「20日に、父さんから電話があったんだ。」
「え、なんでまた。」
「恋くんの、事故の詳細、あの資料には載ってなかっただろ?」
「あ、ああ。トラックと乗用車の衝突、トラックの運転手と乗用車に乗り合わせていた夫婦が死亡としか……」
「不自然だなって思ったのは、夫婦で乗ってたはずなのに、運転席に哉太さん、恋くんのお父さんが座っていて、後ろの席に璃子さん、恋くんのお母さんが座っていたという記載。普通2人で乗るなら助手席に乗るだろ?それも夫婦なのに。」
「……確かに。」
「父さんも不思議に思ったらしいんだ。それでよく考えてみたら、9年前のニュースで、10歳の男の子が助け出されたって言ってたはずだって。」
「え……?!じゃあ恋は乗り合わせてたのか?!」
「そういうこと。」
「それならなんで、資料には載ってないんだよ?」
「……それは、恋くんの記憶がないからだと思う。」
「え……?」
「これはあくまで、俺と父さんの推測。でも当時10歳の少年が、両親をいっぺんに失ったらどうなるかくらい、想像つくだろ?」
「……ショックで記憶が抜け落ちてるってことか?」
「多分。これは隠蔽工作とかそういうことじゃないと思う。息子への聞き取りも事故捜査計画には書いてあった。でもそれが取りやめになってるあたりを考えても、事故の記憶がないと見ていい。」
「そうか……」
「それから、事故の詳しい状況が書いてなかったのも不自然だっただろ?普通、もう少し状況を詳しく資料に残すはずだ。まあ事故に遭った人の調書がないから、事故原因まではわからなくても、車のこととか、現場の状況とか、普通はとっておくだろ。」
「そうだな。」
「だから、当時の事故を知る人に聞いたんだ。」
「よく見つかったな。」
「事故が起きたのは人通りの少ない道路だ。滅多に事故なんて起きない。付近に住んでた人はよく覚えてたよ。」
「どんな状況だったんだ?」
「その日は大雨だったそうだ。雷も鳴っていたらしい。恋くんたちの車は、恋くんの家に向かう方向に、トラックは恋くんたちが来た方向に向かってたらしい。雨とはいえ、視界はそこまで悪くなかったそうだ。」
「それで…?」
「付近と言っても、1番近い家で道路から20分は離れてるんだ。第一発見者の烏沢紘が通報、警察が来てからその事故のことを知って、現場をちらっと見たらしい。乗用車の方はかなりめちゃめちゃで、恋くんが助かったのは奇跡だったって。」
「トラックの方は?」
「トラックの方は、ガードレールに激突。運転手の血痕はあるものの、遺体がなく、運転席のドアが開いていたので崖の下に振り落とされたのではないか、という話が聞こえたそうだ。」
「……遺体捜索は?」
翔也は首を振る。
「遺体が見つかれば、事故じゃないところで死んだのがバレる。運転してたのは間違いなく烏沢俊蔵だ。」
「なんでわかる?」
「その日の烏沢俊蔵のスケジュールがおかしかったんだよ。完璧すぎる。アリバイも何もかもな。知り合いに頼んで裏を取ったら、ちょうど事故の時間に会ってた人間だけが、完璧に覚えてた。9年前のことなのにだ。」
「ふざけてる。」
「動機だけは正直わかんない。でも、恋くんのお父さんとお母さんは、探偵だったらしいから、そういうところの恨みなのかも。烏沢財閥について調べてみたけど、あの財閥はとんでもない数の不正をしてる。裏では暴走族と繋がってるらしいって噂まである。」
「……でも、今まで、全く恋の記憶って戻ってないってことか?少しも……?」
「何か強い衝撃でもない限り思い出さないよ……自分を守るために記憶を消してるんだから。それに、考えてもみなよ。両親がいなくなった後、恋くんは生きるために必死だったはずだ。」
「そういえば……LOVECENTERでの仕事は、持ち掛けられて始めたって言ってた気が……」
「多分それも、烏沢俊蔵の思惑だよ。事故のことなんて考える余裕がない、そんな状況を作り上げたかったんだ。」
「……だとしたら、俺たちが勘ぐり回ってるのってまずいんじゃ……?」
「……そうなんだよね。バレたら結構やばい。だから、父さんにはもう頼めない。でも、1つ気になることがある。」
「なんだ?」
「口封じしたいなら、なんで、恋くんまで殺さなかったのか、だよ。事故を見られたんだよ?きっと運転席にいた俊蔵のことだって記憶の奥底にはある。」
「確かに……なにか意図があるのか?」
「考えられるのは、事故がそんな立て続けに起こったら、さすがにおかしいって周りに思われることを避けるため……かな。」
「だとしたら……もうそろそろそんな事故のことなんて忘れてきた今、不慮の事故ってことで恋を始末しようとするとか……」
「……いや、さすがにそれはないと思う。今、それやったら、俺たちがマスコミとかに何かを公表しないとも限らないだろ?そんなリスクを冒してまで、恋くんの始末を重要視するとは思えない。」
「それもそうか……」
「もう少し俺は調べてみる。琉は恋くんから事故の話が聞き出せないか、頑張ってみてくれない?」
「聞くのか?」
「聞くというよりは、話してくれるようにならないかな、と。明らかに最初よりは心を開いてくれてるし、契約を取っ払えるくらい、仲を縮めてほしい。」
「わかった。正面から向き合ってみる。」
「うん。恋くんのためにも、この事故のことはこのままにしておきたくない。」
翔也の言葉に琉も頷いた。
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