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episode.56 もう一度
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〜琉side〜
「え……どういうことですか。」
琉は思わず聞き返す。
「……ここ半年ほどの記憶が、無い状態です。」
「半年……俺たちと会う前だ……」
翔也がポツリと呟く。
明希は病室に残し、琉と翔也は担当医、鈴木零(すずきれい)と会議室で話していた。
「しばらくは入院していただき、怪我が治ったら通院しながら様子見……という形になると思います。」
「記憶は……いつ戻るんですか……?」
「わかりません……明日戻るかもしれないし、1ヶ月戻らないかもしれない。1年後には戻るかもしれないし、一生戻らないこともあります。」
「どうして記憶が……?」
翔也が零に尋ねる。
「頭を強く打った衝撃かと思ったのですが、それにしては無くした記憶がピンポイントすぎます。何か、本人は覚えていないようなトラウマなどがあったりしませんか?」
「あ…事故…」
「もしかしたらそれが影響しているかもしれません。彼にとって、この半年で何か変化したことはないですか?」
「わかりません……」
琉に思い当たることはなかった。
「彼の中で、その変化が、彼の中で眠るトラウマを引き起こそうとしていたのかもしれません。結果的に、変化も含め、全てなかったことにしてしまっているようです。」
「そうですか……」
話を聞き終えた琉と翔也は会議室を出る。
「……恋くんの記憶が、戻りかけてたってことだ。」
「事故当時の、か?」
「そう。きっと、俺たちと会って、明希ちゃんが俺と付き合うようになって変化を目の当たりにしたり、琉と過ごしたりするうちに、恋くんの中で記憶が少しずつ蘇ってたんだ。」
「なんで?」
「……愛だよ。恋くんがなんであんな状況で助かったと思う?」
「さぁ……」
「恋くんのお母さんが庇ってくれたから……だと俺は思ってる。」
よく考えてみればそうだ。
後部座席に2人が乗っていたとして、母親だけ死ぬなんておかしい。
つまりそれは、恋の母親が、恋を庇ったということ。
無償の愛そのものだ。
「もし、もしもだけど、琉の愛がちゃんと伝わってたとしたら?俺が明希ちゃんを好きなのは、恋くんも知ってた。だとしたら、当時のことを、少しずつ思い出してたのかもしれない。」
「……でも、事故に遭って、無意識にそれを手放した、と。」
「……ここからは完全に俺の想像だけど、もし、恋くんが琉に恋してたとしたら?本当に好きになってたとしたら?昨日、それを言おうとしてたとしたら……?」
琉にはよくわかる。
伝えることが怖い。突き放されることが怖い。でも好き。
頭の中はそればかり。
「……全部想像だけど。でも、そうだとしたら、恋くんの変化は、それだ。その変化もろとも、失ってしまった。」
「どうするべきなんだろうな……」
「……1から、向き合ってみるしかないんじゃないかな。契約から始まった恋愛。でも確実に心を開いてくれてた。1度できたなら、またできる。」
「……今度は、契約じゃなくて、ちゃんと、やりたい。」
「うん。まずは今までのことを、恋くんに説明しないと。鈴木先生もそう言ってたし。」
恋の記憶がないということを説明しなければならない。そして翔也と琉が、恋にとってどういう人間なのかも。
「そうだな……」
琉は大きく深呼吸すると、病室に入った。
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