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episode.58 大事なこと
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〜恋side〜
温かい、大きな手。
恋の頭を優しく撫でる赤津の手はそういう印象だった。
(……やっぱり俺は、この人と恋人だったのか……?この手、すごく安心する……)
恋はしばらくその心地よさに身を委ねていたが、手は離れていく。
「さて、翔也はどこに電話してんだ?」
赤津がその手を握り締めたように見えたが、気のせいだろうか。
「さぁ……?」
明希と赤津が首をかしげたところで、木之本が戻ってきた。
「着替え、歯ブラシ、タオル、その他恋くんが欲しがるものを各自調達!」
「「……はい?」」
戻ってきた木之本が突然宣言したため、明希と赤津は固まって聞き返す。
「ん?あ、入院患者に必要なものだってば。」
「なんでお前が知ってんだよ。」
「俺が知ってるわけないだろ?母さんに聞いたの。」
「瑞貴(みずき)さん?」
「そう。貴也がサッカーで骨折して入院したことあったから。知ってるかなぁって思ってさ。あ、だからサンドイッチとスープ作って持ってきてくれるって。」
「え?恋は病院食だろ?」
「アホか琉。俺たちのだよ。」
「あ、なるほど。家近いんだっけ?」
「こっから?まあまあ近いよ。」
「貴也くんも来ますかねぇ?」
明希がソワソワした様子でそう言う。
「え、なんで?」
「貴也くんいい子ですから!」
「え、会いたいの?」
翔也がそう聞く。
「だって弟みたいで可愛いんですもん。」
「……ほう、もう実家にも挨拶済みか。」
恋はわざとらしくそう言った。
「や、やめろよ恥ずかしい!」
(明希、本当に木之本さんのこと好きなんだ……)
恋はそう思い、少し安心した。
今まで、明希があんなに楽しそうに笑うことはどれほどあっただろう。
木之本は本当にいい人なんだと、そうも思った。
「まあまあ、とにもかくにも、母さんが来る前にいろいろ用意しないと。」
「俺は一回家帰って恋の着替えとってくる。そのついでに歯ブラシとかタオル買ってくるわ。」
「そっか……じゃあ俺母さん迎えに行ってきていい?」
「いいけど、お前車は?」
「ここ来るときに明希ちゃん乗せてきたから駐車場にある。」
「ん、そっか。んじゃ明希くんは留守番だな。」
「わかりました!」
赤津と木之本はさっさと出て行く。
病室には恋と明希だけになった。
「ねぇ、恋。プレッシャーかけたりとか、できればしたくないんだけど、早く思い出してよ?」
「え?」
「すごく、大事なことなんだよ。」
明希は真剣な顔でそう言う。
一体自分は何を忘れているというのか。
「大事な……こと?」
「うん。恋、絶対思い出してよ。」
「……どんなことなんだ?」
せめて思い出すきっかけでもないか、と恋はそう尋ねた。
「……これは、ちゃんと、恋が自分で思い出した方がいい。絶対。俺が言うのは簡単だけど、それじゃ意味ないと思う。」
明希は真剣な表情でそう言った。
(大事なこと……?なんなんだ……?)
考えた時、ふっと赤津の顔が頭をよぎり、恋は不思議に思った。
(……赤津さんに関すること、なのか?)
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