アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
episode.95 逃走計画
-
〜紘side〜
20時半 烏沢邸
「あぁ、わかった。恋はそのまま家に置いて。これから明希くんを逃すから。どちらかが交差点のとこまで迎えに来て。俺がそこまで行くから。」
紘は琉と電話を終えると千秋と目を合わせる。
「今ちょうど俊蔵様が部屋から出ました。鍵は既に手に入れてあります。急ぎましょう。」
「まだ何もされてないよな?」
「何も。全くです。それから……これ、渡しておきます。机の場所をここではなく、聖川の家に移しておきました。」
千秋はそう言ってリングのついたネックレスを差し出した。
千秋が切り札だと言っていたUSBのある机の引き出しの鍵になっているそれだ。
「……千秋……?」
この後の作戦は、千秋が明希を助け出し、その後紘が屋敷の外まで連れ出すというもの。紘が全ての証拠を持ち、千秋とは後で合流、それから2人で烏沢邸から逃走するつもりだった。
千秋は俊蔵と鉢合わせる可能性を考えているのだろうか。
「……紘さん。僕は、大丈夫ですからね。」
千秋はそう言って笑った。
その笑顔は今にも壊れてしまいそうで、紘は部屋を出て行く千秋の手を思わず掴みそうになった。
だがその前に千秋は振り返る。
「さて、紘さん、やりますよ!」
千秋にそう言われ、紘も気を引き締める。
千秋が先に部屋を出て、奥にある明希が拘束された部屋に向かう。
紘は部屋の外で待機だ。
明希を先に助け出し、盗聴器の回収も千秋の仕事だった。
あたりを確認し、全く見張りなどがいないため、千秋が鍵を開けて部屋に入る。
それからすぐに明希が部屋から出てきた。
拘束されていたせいで手首は少し赤く、かなりの薄着であるがそれに構っている暇はない。
「ごめん、少し寒いと思うけど我慢して。車で木之本さんが迎えに来てくれるから。」
紘は明希を連れて走りながら説明する。
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
明希は静かにお礼を繰り返す。
邸内にある防犯カメラに映らないルートを使って逃走し、門の外にやっと出た。
「よし、ここまでくれば大丈夫。まだ走れる?歩く?」
「はぁ……はぁ……歩いても、いいですか。」
明希の息は上がっていて、言葉通り歩くのが得策だろう。
そこから10分ほど歩くと交差点につき、そこに車が一台停まっていた。
「こっち!」
中から翔也が手を振っている。後部座席には琉と恋の姿もあった。
「恋まで連れてきたのか?!」
「紘さんごめん。恋がどうしてもって聞かなくて。」
恋の左腕には包帯が巻かれていて、そこからは血が滲んでいる。かなり痛々しい状態だった。
「……わかった、気づかれるのも時間の問題だから。とにかく急いでこの場から離れて。後のことは警察に任せるから。裁判の手配が済んだらまた連絡する。」
「わかった。」
「紘さん本当にありがとう。明希ちゃん、乗って。」
翔也は紘にお礼を言い、助手席の扉を開ける。
「紘さん……ありがとうございました。」
恋がそう言う。
「恋、ごめんな。」
紘は9年越しの謝罪をした気がした。
その後すぐに車は走り去り、紘は千秋との合流地点に向かう。
うまくいっているならもう千秋が先についているはずだった。
だがそこに、千秋の姿はなく、何時間経っても、千秋は現れなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
109 / 832