アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
episode.97 逮捕
-
〜琉side〜
2月3日
『今朝早く、警視総監であり、烏沢財閥当主の烏沢俊蔵氏が逮捕されました。』
俊蔵が逮捕されたのは、明希が連れ去られてから4日後のことだった。
『俊蔵氏は都内の地下室に潜伏していたとみられ、昨日夜より、人質を盾にして立てこもっていましたが、今朝ついに逮捕に至ったということです。』
「捕まったんですね。」
恋が紅茶を持ってきて、琉の隣に腰掛ける。
「らしいな。」
『人質とされていた少年は病院に搬送され、治療を受けているとのことです。』
「この病院……」
テレビに映った病院は恋も入院した病院だった。
「……そもそも、人質の少年って誰なんでしょう?」
恋の疑問に、琉は心当たりがあった。
聖川千秋。彼だ。
紘と一緒に明希の逃亡を手助けしてくれていたはずだが、あの場に姿がなかった。
「大丈夫なんでしょうか……」
「……きっと大丈夫。紘さんからの連絡を待とう。」
紘からの連絡はその日の昼に来た。
裁判の手配は既に整い、初審は明日という異例のスケジュールだと紘は言ってきた。
本来、裁判にはかなりの時間がかかる。
だが逮捕前に紘が準備をかなり進めていたこと。さらに、警視総監の重大犯罪ということで国が焦ったらしい。
これには恐らく、ローデンス国からジルの圧力がかかっていることも関係しているのだと琉は思った。
紘は裁判で重要なのは、9年前の青木夫妻殺しの立証だと言っていた。
他のことは完璧な証拠もあり、立証確実。勝訴は間違いないと検事から言われたらしい。
また、松宮家の放火事件は証拠が残っており、それを使えば間違いないという。
ところが青木夫妻殺しは証拠がない。
そこで重要になってくるのが、事故被害者で唯一生存者である恋の証言。恋の証言に信憑性があれば、立証も可能だということだった。
(真の意味で、俊蔵に罪を償わせるには……恋の記憶が戻らないと……)
恋の記憶が戻る気配はあまり見られなかった。
記憶の戻らないうちは、証言も不可能だろう。
「恋、昔のこと、覚えてるか?」
「昔ですか?」
「あぁ。ご両親の事故のこととか。」
「それ……警察の方にも昔聞かれましたが、俺は全然覚えてなくて……思い出さないとまずいんですかね……?」
そういう恋の目は不安そうだった。
「……いや、大丈夫。問題ないよ。」
琉はそう言って恋の頭を優しく撫でる。
すると恋はホッとした表情になった。
(なんとか、恋の記憶が戻らないか……)
琉のその願いは、思ったよりも早く叶うことになった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
111 / 832