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episode.105 バレンタインデー2
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※このepisodeでは2月14日の恋、明希、千秋についてそれぞれの目線で描きます!ゆえに長めです。
〜恋side〜
恋は珍しく緊張というものを味わっていた。
今日は小雪が夜遅くなると言っていたので、赤津が仕事から帰ってきたら生チョコを渡そうと決めていた。
もうすぐ赤津が帰ってくる時間。
時計の針が進むのがとても早い気がした。
(喜んでもらえるのかな……)
恋がそんなことを考えていると、ガチャリ、と扉が開く音がした。
「ただいまー。」
「お、おかえりなさい。」
「……?どうした?なんかあった?」
「な、な、な、なんでもないです。」
「恋?」
自分でもびっくりするくらい、恋は頭が回らなかった。
「えっと……今日は、バレンタインデー、ですよね。」
「ん?あー、そうだな。」
「だ、から……これ……」
恋は後手に持っていたチョコを包んだ袋を差し出す。
明希が用意した、ハートの柄の可愛いもの。
いざ目の前にすると恥ずかしくて、顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「……え、本当に?マジで?え、めっちゃ嬉しい。他の誰からもらったのより1番嬉しい。」
赤津はそれを受け取ると子供のようにはしゃいで喜んだ。
「え、もったいなくて食べれない。でも作ったのいつ?」
「昨日です。」
「え、じゃあ今日食べないとじゃん。え、もったいない。でも食べたい。」
赤津は1人で葛藤を繰り広げる。
それを見て恋は思わずクスリと笑ってしまった。
「お、久しぶりに笑ったなー?」
赤津はそう言って恋の頭をワシャワシャと撫でてくる。
「ぅわわ!な、にするんですか!」
振りほどこうと顔をガバッとあげると、あまりに柔らかい笑顔の赤津がいて、恋はポカンとしてしまった。
「ありがと。大事に食う。」
「……味は保証しませんよ。」
恋はそう言ってふいっと顔を背けたが、それを見た赤津が本当に嬉しそうに笑っていたなんて、恋は知る由もないだろう。
*
〜明希side〜
「ただいまー。」
「おかえりなさい!」
「んー。明希ちゃん……疲れた……」
玄関で明希の肩に頭をもたげる翔也。
その右手には紙袋があり、大量のチョコレートが入っている。
(やっぱりモテるんだなぁ……)
「お風呂入りますか?」
「うん、入る。」
翔也はそういうと明希から離れてフラフラとリビングの方に向かう。
翔也はソファにバックを置いて、紙袋はそのまま冷蔵庫に入れている。
翔也は麦茶をコップに入れてソファに座った。
その時、その弾みでバックが落ちた。
「あ……ん?」
それを拾い上げようと明希が近づくと、少しおしゃれな包装の、でもおそらく手作りであろうチョコレートがあった。
なぜこれだけバックにしまってあるのか。
明希は不思議に思った。
差出人の名前が書いてあり、こゆき、と平仮名で書いてある。
「明希ちゃん、どうしたの……明希ちゃん?!」
「うっ……うぅっ、うーっ……」
明希の目からはポロポロと涙が溢れていて、慌てた翔也が立ち上がり駆け寄ってきた。
「明希ちゃん?どうしたの?」
「うっ……しょう、やさんの、ばかぁ……」
明希はそういうとパタパタとかけていき、バタン!と大きな音を立てて外に行ってしまった。
*
〜千秋side〜
一方その頃。
「ただいま。」
ヒロが帰宅したことに、千秋は音でなく、他の感覚で気づく。
今日は痛む身体に少し無理をさせ、玄関まで出迎えに行く。
「痛いだろ?座って待ってていいのに。」
"これ、あげます。"
千秋はそう言って恋と明希に手伝ってもらって作ったトリュフを差し出す。
ヒロは固まる。
(ヒロさん、嫌だったのかなぁ……)
「え、俺にくれるのか?」
千秋はこくりと頷く。
「マジか……超嬉しい。」
そう言って口元に手を当てたヒロの顔を見て、千秋は本当に紘に似ているな、などと考える。
(紘さんに会いたいなぁ……)
「千秋、ありがとう。」
そう言ってヒロは千秋の頭を優しく撫でた。
手が伸びてきた時、一瞬ビクッとしてしまったが、ヒロに撫でられると安心した。
「怖い……?」
ヒロはそう聞くので首を横に振った。
「そっか。無理しないで言えよ。」
ヒロに優しくされればされるほど、千秋は紘に会いたくなった。
「さ、て!夕飯の支度するか!」
ヒロがそう言うので、2人でリビングに行こうとしたその時、インターフォンがなった。
「はーい……って、どうした?!」
扉の外には目を真っ赤にして泣いている明希がいた。
それもかなりの薄着だ。
「と、とりあえず……中入る?」
明希はこくりと頷いて中に入った。
"明希、どうしたの?"
「う……うぅ……うぁぁぁぁ!」
「あ、明希?とりあえず座ろっか?」
"明希、おいで。"
千秋が明希の手を引き、3人でリビングに入る。
明希を座らせ、話を聞いてみると、家を飛び出してきてしまったらしい。
「うっ……うぅ……」
グスグスと明希は泣いていて、目をこするせいでまた目が赤くなる。
"ちゃんと木之本さんと話した?"
「は、なし?」
"だって、小雪さんからもらったチョコをたまたまカバンに入れてたのかもしれないし、特別意味がないのかもしれないでしょ?"
「うっ……でも、しょ、やさん、さい、きん……こ、ゆきさ、んのっ……はな、し、しか、しない、からっ……」
明希は泣いているせいで言葉も途切れ途切れ、手話をする余裕もないらしい。
それでもゆっくり話すおかげで千秋にも言いたいことは読み取れた。
"久しぶりに後輩に会えて嬉しいだけだよきっと。明希のこと、好きって言ってくれたんでしょ?"
「う、ん……」
「とにかく、そういうことなら翔也が心配してるだろうから……」
ヒロがそう言った時、インターフォンが鳴る。
「はーい!」
ヒロが急いで出て行く。
千秋と明希もそれを追った。
「はい……あ、翔也!良いところに。」
「ごめん紘さん、明希きてる?」
*
〜明希side〜
「ごめん紘さん、明希きてる?」
息を切らして、肩を上下させながら、翔也はそう言った。
いつもは"明希ちゃん"と柔らかい声でそう言うのに、その時の翔也は、余裕のない声で、"明希"と言った。
「うん、来てる。」
紘が少し身体を斜めにして、千秋の後ろに隠れるようにしている明希を翔也に見せる。
もっとも明希と千秋の身長は1cmしか差がないためほぼ隠れていないのだが。
「はぁぁぁぁ……よかった……」
翔也は少し伸びた前髪をかきあげてヘタリとしゃがみこんだ。
「ほら、明希、帰りな。」
「う……」
明希はぎゅうっと千秋の服を掴む。
明希は不安な時、心配なことがある時はこうして人の服を掴んでいることが多い。
「大丈夫だよ。明希ちゃん、怒んないし、怒ってないし、心配してるようなこともないから。」
それを見透かしたように翔也はそう言う。
「え、ちょ、なにしてるんですか?」
そこに恋と赤津がやってきた。
「え、2人ともどうしたの?」
紘が驚いてそう言う。
「いや実は生チョコがだいぶ余っちゃったので、おすそ分けにと思って……明希、泣いたの?」
「う……うぅ……」
明希はさらに千秋の後ろに隠れるようにする。
恋と赤津に事情を説明したところで、赤津が思いついたように一度家に帰っていく。
すぐに赤津は戻ってきた。
「わかった、2人の喧嘩の原因はこれだな?」
そう言って赤津が見せてきたのは、確かに翔也がもらっていたチョコレートと同じ包みのもの。
「ふぇ……?」
「あーもう、小雪のやつ……あいつこれ、事務所の全員のバックに入れてんだよ。」
"ほら……明希、大丈夫だったでしょ?"
「いやー……俺も確認しなかったのが悪かったわ。ごめんね、明希ちゃん。」
明希は首を横にブンブンと振る。
「さて、お騒がせしましたね。しかも玄関開けっぱなしで紘さんも千秋ちゃんも寒いよね。」
「俺たちも帰りましょう。」
赤津と恋が先に家に帰り、明希は翔也に手を引かれ、玄関の外に出る。
「すいませんでした。」
翔也はそう言って頭を下げた。
「いやいや、気にしないで。明希薄着だから、風邪引かないように気をつけて。」
「ありがとうございました。」
明希を心配してくれた紘に、翔也はお礼を言ってドアを閉めた。
明希は俯いていた。
するとふわりとコートをかけられる。
「もう……心配したじゃん、いなくなったらどうしようって……」
そのままぎゅっと抱きしめられた。
「明希ちゃんが思ってるより、俺は明希ちゃんのこと大好きだからね?」
「おれ、も……すき、です……」
「ふふ……帰ろっか。」
少しだけ素直になれるのは、バレンタインデーの魔法かもしれない。
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