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episode.107 痛い優しさ
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〜恋side〜
「……ん、れん、恋!恋!」
ぼやける視界の中で明希の顔が見えた。そして、明希に呼ばれている。
「ん……?」
恋が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
「あ……千秋……ごめん、な?」
千秋は恋の手をぎゅっと握っていて、涙がにじんでいた。
よほど驚いたのだろう。明希が隣で背中をさすっていた。
「赤津さんが今、色々手続きしてる。今日は念のため入院だって。」
「ん……」
「千秋が零先生に電話かけてくれて、病院に運ばれたんだ。」
「千秋……ありがと……」
"なんともなくてよかった。驚いた。"
「千秋、俺にも連絡してくれて、赤津さんにも俺から伝えた。紘さんにも一応連絡入れた。あとで千秋のこと迎えに来るって。」
「ごめん、迷惑かけた……」
「そんなこといいって!それより体調悪かったなら無理すんなって。」
「いや……本当に突然頭が割れそうになって……」
体力を消耗したのか、恋の体はだるく、重かった。
「どうしたんだろう、急に……」
「千秋と話してただけなんだけど……」
"本当に普通の会話だった。"
「もしかして記憶が戻りかけたのかな?」
「そういえば……うーん……でもなんも思い出せない。ていうか今何時……?」
「19時だよ。」
「……嘘だろ、3時間も経ってるし。」
恋が頭を抱えたところで、赤津が入ってきた。
「恋!」
「あ、赤津さん……」
「ったく……無理すんなって言ったばっかりだろ!」
「……あ、えっと……すみません……」
「っ……泣くなよ、ごめん。怒って悪かった。」
「え……?」
赤津の顔を見た途端、急に安心して、恋は泣いていた。
なんだがもう、ずっと会っていなかったような錯覚に陥った。
「な、んで……泣いて……?」
「体調は?痛いとこないか?」
「はい……だいじょぶ、です……」
「ん、よかった。」
赤津はそう言って恋の頭を撫でる。
それが心地よくて、その心地よさに身を委ねた。
「翔也が撮影終わったら、明希くん迎えに行こうか?って言ってたけど、どうする?」
「あ、自分で連絡しておきます。」
「そっか。」
コンコン、とノックの音がして、すぐに扉が開く。
「恋、目覚めてたのか。」
紘だった。
「あ、紘さん……すみません、その、千秋の面倒みるとか言っておきながら俺が面倒かけちゃって……」
「気にしない気にしない。千秋と明希両方から着信入ってた時は何事かと思ったけど。大丈夫そうでよかった。」
千秋もよほど不安だったのだろう、紘の顔を見た途端に泣き出した。
「不安だったな。でも千秋、ちゃんと恋のこと助けたんだぞ。偉いな。」
まるで子供をあやすかのように千秋の頭を撫でて、紘はそう言った。
「さて、まだ千秋の体調も万全じゃないし……恋には琉がついてるし、大丈夫そうなら帰るけど……」
「早く千秋を連れ帰って寝かせてください。多分、すごく驚いたんだと思うんで……」
恋は申し訳なさそうにそう言った。
「明日には帰れるみたいだし大丈夫ですよ。」
琉もそう言う。
「それじゃお先に。」
紘はそう言うと千秋を連れて病室を出て行く。
程なくして、明希にも木之本から連絡が来て、病室を出て行った。
「……小雪さんは……?」
「家。」
「帰らなくていいんですか?」
「恋がこんなことになってるのに?」
赤津はそう言いながら、右手は優しく恋の頭を撫でていて、左手は手を握っていた。
「もう平気なのに……」
「俺が心配なの。いいから大人しく寝ろ。」
赤津の優しさは、恋の胸を温かくさせるとともに、チクリと痛ませた。
この優しさが、契約の元にあることを、恋はどうしても切り離せなかった。
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