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episode.122 家族
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〜明希side〜
5月3日
「明希ちゃん、緊張してる?」
「……はい……」
結婚式の準備もだんだん進んできて、式場やらなんやらも決まり、翔也の家族への挨拶も改めて済ませた。
そして今日は、明希の実家の前にいた。
翔也は震える明希の手をぎゅっと握ってきた。
「大丈夫。俺もいるし、大丈夫だよ。」
明希は意を決してインターフォンを鳴らす。
15年間過ごした、見慣れた家。見慣れた庭。
『はい。』
インターフォンに出たのは執事だった。
「……明希です。」
『明利様!明利様!!明希様がいらっしゃいました!!』
執事の声がインターフォンを通して聞こえてくる。
「……え?」
そして門から見えた、扉の外に出てきた人影は、執事ではなかった。
「父さん……」
明希の手にぎゅっと力が入る。
その手を翔也が握り返す。
明利の後ろから執事が出てきて、門を開けにこちらにやってきた。
門を開けられ、すぐに中に通される。
「明希……」
家の入り口で、明利と目が合い、明希の体がこわばる。
翔也は手を離さなかった。
「入りなさい。」
明利はそう言うと先に中に入る。翔也と明希も後を追って入った。
応接間に通され、執事が紅茶を出す。
重い空気の中で、最初に口を開いたのは明利だった。
「明希……元気だったか。」
「……はい。」
「そちらの方は?」
その質問には明希ではなく、翔也が答えた。
「木之本翔也です。明希さんとお付き合いさせていただいています。」
「明希と……?」
明利の顔が歪む。
やはりまだ、明希には偏見があるのか。そう思った時だった。
「……本当に、明希のことを大切に思っているんですか?」
明利の口から発されたのは、明希の予想とは異なったものだった。
「……明希のことは、ずっと話を聞いていた。中学時代にあんなことがあったなんて知らなくてな……つい最近、またあったんだろう?」
明利の言っているのは、おそらく傑の話。それからさらわれた話であろう。
「笹倉グループは圧力をかけて潰したいくらいだが、汚い手は使いたくない。だが心配するな。傑くんを許す気はないし、市場で笹倉グループにも仕返ししてやる。」
明利は明希の方を見ながらそう話した。
明希は思ってもみなかった言葉に驚くばかりだ。
「付き合っているというからには、あなたは明希のそういった事情も知っているのだろうが、もう明希が傷つくようなことがあってほしくない。」
そう言う明利の顔は、父親だった。
明希のことを本気で心配している。
「お父様が心配なさる理由はよくわかります。ですが、俺は本気です。明希さんのことを、愛しています。」
翔也は明利の目をまっすぐ見つめてそう言った。
すると明利は、ふっと目を細めた。
「そうですか。それを聞いて安心しました。すみません。あなたのことも当然調べは付いています。試すような真似をして申し訳ない。」
明希にはまだ、何が何だか理解ができなかった。
父親は、自分を嫌悪していたはず。
同性愛に偏見があり、それを理由に自分を追い出した。
家には近寄るなという雰囲気だった。
それが一体なぜ。
「明希……すまなかった。父さんを許してほしい。」
疑問が浮かんだ明希に、明利は頭を下げた。
「父さん……」
「私が間違っていた。私は長いこと忘れていたようだ。愛がどんなものなのかを。」
そう言う明利の目の先には明希の母親、希世と明利、幼い明希が写った写真がある。
「お前には悪いことをした。本当にすまなかった。」
「父さん……」
明希の目からは涙が流れ、それはずっとあったわだかまりも、流していくような気がした。
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