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episode.130 前日
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※このepisodeは翔也と明希の結婚式の前日のお話です。
※目線は恋、明希、千秋で、3人が語るような形になります。ので少し長いです。
〜恋side〜
それから結婚式まではあっという間の1ヶ月だった。
特に何事もなく、何の変化もなく。
……いや、正確には赤津さんのことを好きだって気持ちが、どんどん膨らんでいて少し困っている。
……でも問題はこれからなんだ。
明日は明希の結婚式。それはとてもいいんだけど。
なぜか2人の新婚旅行に俺と赤津さん、それから紘さんと千秋もついていくことに。
なんでも、紘さんは仕事のこともあり、明希たちの旅行先、ローデンスに行く必要があるらしい。
それなら千秋も、と明希が言い出して、結局みんなで旅行なのだ。
……問題はもうひとつ。小雪さんもついてくること。
もうどうしたらいいんだろう……
今俺はそんなことを考えながらクレアとメールしている。
実はあれからクレアとラズとはすごく仲良くなって、よくメールしている。
明希も交えて4人で通話したこともあったり……
そういえば、前に、クレアが俺に耳打ちしてきたことがあった時は
"「リュウ・アカツのこと、好きなんでしょ?しっかり繋ぎとめておいたほうがいいよ?」"
……なんて言うもんだから、もう顔から火が出るかと思った。
俺とクレアがメールしていたのは、7月の頭にそっちに行く、という話。
明希と翔也さんの新婚旅行なんだ、と伝えるとクレアは驚いたみたいだった。
赤津さんはまだお風呂に入っていて、俺は1人で布団に入って明日のことを考えた。
今の俺の悩みなんて、ちっぽけなくらい嬉しいこと。
明希がやっと、やっと幸せになれる。
家族とも仲直りできて、本当に良かったと思ってる。
明希が本当に、心から笑顔になれるだろうな、なんて。
俺はすごく幸せな気分で目を閉じた。
……その後、お風呂から戻ってきた赤津さんが、俺の頭を撫でていた気がしたけど、俺はもう目を開ける気力もなくて、そのまま眠気に身を任せた。
〜明希side〜
上原明希、めちゃめちゃ緊張して眠れません。
明日はいよいよ挙式。
それで、今日は実家に泊まりにきた。
でも、あんまりにも緊張して眠れないから、父さんと菜々子さんの部屋に行く。
「……もう寝てる……?」
「明希くん?」
「どうしたんだ?」
「ききき、緊張して……眠れなくてっ……!」
「ははは!こっちにおいで、明希。」
父さんが優しく呼んでくれて、こうなってるのも全部翔也さんのおかげだなって思った。
翔也さんが、ちゃんと実家に挨拶に行きたいって言ってくれたから、今、父さんとも菜々子さんともこうしていられる。
……実は菜々子さんのことを、母さんって、呼んでみたかったりする。
「……うーん、娘を嫁に出す親はこんな気分なんだろうか。嬉しいけどとても寂しい。」
父さんはそう言って俺の頭を撫でてくれた。
俺も寂しくなってきた。いつでも会えるのに。
「まして私は、時間を無駄にしてしまったから……明希ともっと、一緒にいたいと思ってしまうよ。」
「私は明希くんと過ごした時間は本当に少しだったから……寂しいわ。」
「俺も寂しい……でも、いつでも会えるから……また会いに来るし、翔也さんと泊まりにくるし……うちにも来て?」
「……会いに行っていいのか?」
「当たり前だよ!父さんも……母さんも。」
「……!!!明希くん……!」
「明希、でいいよ。母さん。」
言葉に出したら、なんだかすごく照れくさくて。
でもすごく甘えたくなった。
「明希、ありがとう。」
「ううん……ねー、甘えてもいいかな?」
「いいぞ。」
「ええ、いいわよ。」
「ぎゅーってして、ほしい……」
父さんと母さんは、顔を見合わせてにっこり笑う。
母さんが俺のことをぎゅって抱きしめてくれて、父さんが俺と母さんを抱きしめてくれて……
すごくあったかくて、すごく幸せ。
「ありがと……大好き……父さんも母さんも、もちろん利希も!」
「ふふふ……明希。母さんって呼んでくれて嬉しい。これからいっぱい、愛してあげるからね。」
「今まで遠回りしてしまったからね……これからたくさん、明希の笑顔が見たいな。」
父さんと母さんに包まれてたら、なんだか心がポカポカして、安心して、眠くなった。
「あらあら……寝ちゃったのね。」
「このままここで寝かせてあげよう。」
「そうですね。」
遠くなる意識の中で、2人がそんな会話をしているのを耳にして、本当に幸せな気分だった。
〜千秋side〜
明日は明希の結婚式。
明希はすごく幸せそうで、見てると僕まで幸せな気分。
でも、幸せな気分になればなるほど
紘さんに会いたくなるんだ。
僕のせいで、紘さんは壊されてしまったんだ。
紘さんに会いたくて、会いたくて、会いたくて
でももう会えなくて
紘さんの代わりに僕のそばにいるのは
同じ名前、同じ顔のヒロさん。
ヒロさんは、本当に紘さんに似てて
たまに、紘さんって、口から出そうになる。
でも、僕の口から声は出なくて
耳も聞こえない。
紘さんの声、聞いたらすぐにわかるのに。
ヒロさんの声は、どんな声なんだろう。
紘さんに似てるのかな。
でも紘さんの声はすごく特徴的だから……
僕がそうやって考え事をしてたら、いつの間にかヒロさんが僕が寝ている隣に寝転んできた。
"ヒロさん?どうしたの?"
「千秋を、抱きしめたくなったんだ。」
ヒロさんはいつも、僕に優しさをくれる。
まるで紘さんみたい。
自分はあんまり笑わなくて、泣かなくて、怒らなくて
でも僕にはいっぱい優しさをくれて。
でも僕はね、紘さんの
紘さんの笑顔が見たかったのに。
「千秋……?どうして泣いてるの?」
……泣いてる?僕が?僕、また泣けたんだ。
恋が倒れた時は、怖くて、ヒロさんを見たら涙が溢れてきた。
でも今も泣けるなんてなぁ。
もう僕、涙も残ってないと思ってたのに。
「千秋……泣かないで……お願い、笑って……俺が幸せにしてあげるから……」
ヒロさんは手話を使わなくて。
でも読唇できる僕は、何を言ってるかわかった。
ヒロさん……どうしてヒロさんが泣くの?
「千秋……1回だけでいいから……俺を呼んで。俺を呼んで、笑って……?」
ヒロさんは眉を下げて、悲しそうに笑った。
どこかで見覚えのあるその笑顔は、紘さんの笑顔だと思った。
ヒロさんが紘さんみたいに笑う。なんでだろう。
胸が痛い。
「……な、か……な、い、で……」
ヒロさんは驚いていた。
ってことは、上手く言えたのかな。
泣かないでって。
「千秋っ……」
ヒロさんは俺のことをぎゅって抱きしめて
その体はすごく温かくて
とっても安心した。
「ひ、ろ……さん……」
幸せな気持ちになった僕は、紘さん、って言いたくて。
でもやっぱり言えたのかどうかはわからなかった。
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