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episode.155 空模様
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〜恋side〜
"「恋、俺はお前のことが好きなんだ。」"
ウサギから聞こえてきた言葉に、恋は耳を疑った。
だが、確かに、それは赤津の声で、赤津の言葉だった。
「……好き……?赤津さんが、俺を……?」
"「契約とか、関係なしに、そばにいたいって思ってる。お金で、愛は買えない。でも俺は、お前の気持ちが欲しい。俺はお前が、好きだ。」"
恋の頭の中に、好きという言葉がぐるぐると回る。
「ずるい……どうして直接言ってくれないの……?俺も、俺も好きなのに……!」
恋はベットから飛び降りて、財布と携帯を手に家を飛び出す。
時間は14時になろうかという頃。
ギリギリ搭乗までに間に合うかもしれない。
家から飛び出して走り出す。
走り出してすぐに、雨が降り始めた。
すぐそばでタクシーを捕まえる。
「成田空港までお願いします!」
乗り込んですぐに行き先を伝える。
ここからは成田まで1時間と少しかかる。
搭乗手続きまでにギリギリ間に合うか間に合わないかだ。
タクシーの窓には雨がだんだんと強く打ち付けるようになっている。
恋は昨年のことを思い出した。
電車の中で聞いた、少女と母親の会話。
七夕、織姫と彦星が一年に一度だけ会える日。
そして頭によぎったのは、雨が降るのは、2人が会うことができずに流した涙が、地に降り注ぐからという伝説。
「お客さん、空港に行くような格好には見えないね。」
「あ……大好きな人が、他国に行きそうなんです……」
自分でもなんでタクシーの運転手にそんな話をし始めたのか、わからなかった。
「応援するつもりだったんです……でも……」
「諦めるのは、若い頃には似合わねえよ。」
タクシーの運転手はバックミラー越しに恋の方を見てくる。
「お客さん、知ってるかい?七夕の雨にはね、催涙雨以外にもう1つ説があるんだよ。」
「え……?」
「織姫と彦星が会えたことで流す、嬉し涙っていう説さ。でもそれは狐に化かされたみたいな天気雨だって話だがな。」
「……天気、雨。」
恋は言われて窓の外に目をやる。
だが窓の外は暗く、厚い雲に覆われていた。
ゴロゴロゴロ、と雷の音がして、恋は体をこわばらせる。
「お客さん、大丈夫かい?」
恋の体はガタガタと震え始めた。
「大丈夫、です……早く、空港に……」
恋は自分の体をぎゅっと抱きしめる。
半年前、家で自分を抱きしめてくれた赤津の腕を思い出し、なんとか心を落ち着ける。
「雷まで鳴るなんて……今年の七夕はタダでは終わらなさそうだねえ……」
運転手はそう呟き、少しだけ車のスピードを上げる。
(赤津さん、赤津さん……)
今すぐにでも赤津に抱きしめて欲しい気持ちを必死に落ち着かせて、窓の外を眺めていた。
その空模様は、今にも泣き出しそうな恋の心を映し出したかのようだった。
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