アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
*138
-
〜恋side〜
12月1日 10時
12月に入り、琉の忙しさにも拍車がかかってきた。
そんなとき、朝からなったチャイムの音に、恋は首をかしげる。
(…誰だろ?)
不思議に思いながら玄関を開けると、そこにいたのは真っ赤に目を腫らした明希だった。
「え…なに、どうした?!」
「うぅ、うぅぅぅー…」
「え、えぇぇぇ…?!」
恋の顔を見た瞬間に泣き始めた明希に、恋は戸惑いを隠せない。
「恋…れぇぇぇん…」
「と、とりあえず中入ったら…?」
「うぅぅー…」
泣きながら頷く明希を宥めつつ、リビングに入る。
朝から一体どうしたのだろうか。
「どうした?」
「うぅ、っう…ふ…」
明希はグスグスと泣きじゃくっていて、答えられそうな雰囲気ではない。
(…翔也さんと喧嘩?)
「もしかして、喧嘩でもした?」
そう聞いてみるが、それには首を振る。
喧嘩ではない。なら、なぜ泣いているのだろう。
「しょ、や、さんが…し、んじゃう…」
恋は一瞬、耳を疑った。
「しょうやさんが、しんじゃうよぉぉぉ…」
ボロボロと泣き始めた明希の様子を見ると、冗談でもなんでもないようだが、一体どういうことだろうか。
「いや、そんな、急に死なないだろ。」
「だって、これぇ…」
明希がポケットから取り出したのは、病院からの健康診断の結果通知。
そこには精密検査が必要、ということが書いてあり、何より気になるのは"腫瘍"という語句。
健康診断で翔也の体内に腫瘍が見つかったと、そういうことでいいのだろう。
「健康診断なんて、受けてたのか?」
「わか、ない、けど…うけ、てた、のかも…」
腫瘍、と言われるとどうしても思い浮かぶのはガンだ。
そうなると死ぬというイメージもわからなくはない。
いくら医療が進歩しても、ガンで亡くなる人はやはり多いのが現状だった。
「まあ、まだ悪性って決まったわけじゃないし…良性の可能性もあるだろ?だから精密検査って…」
「が、ん…だったら…?」
「…そんなことないって。」
「もし、万が一、そうだったら?俺、俺やだよぉぉ…」
声を上げて泣き始めた明希の背中をさすって、なんとか宥めようとするものの、全く泣き止む気配がない。
「そもそもこれ、どこで見つけたんだ?」
「引き出しの、中にっ…入っててっ…掃除、の、途中で、見つけた…」
「翔也さんはなにも言わなかったってことだろ?それならきっと、大丈夫ってことだよ。」
「でも、俺に、心配かけたくなくて、黙ってるとか…翔也さんなら、しそうなんだもん…」
そう言われると、反論できない。
確かに翔也なら、余計な心配をかけまいと黙っていそうではある。
それは琉も同様であるが。
「やだぁぁ…しょうやさんが、いなくなるなんて、やだよぉぉぉ…」
「まだ死ぬって決まったわけじゃないだろ。もしガンでも、治る人だっているんだから。」
「でも、ガンは、転移が、怖いんだろ?それで、死んじゃう人、多いんだろ?」
どうやらネットか何かで調べたようだ。
それでここに来た時にはすでに泣いていたのかもしれない。
「ま、まあ、とにかく!まだガンと決まったわけじゃないし、それに治る可能性もあるし、とにかく今は翔也さんから何か言われるのを待つしかないだろ?」
「うん…」
「ほら、大丈夫だって。もう泣くなよ。」
「うん…」
目に涙をいっぱい溜めているが、なんとか泣き止んだ明希は、すんすんと鼻をすすっている。
「もしなんかあったら、連絡して?な?千秋にも話しておくから。」
「うんっ…ありがと…」
落ち着いた明希はそのあと帰って行ったが、恋も翔也のことが心配だった。
琉に聞いてみたいとは思うものの、翔也が琉にもなにも言っていないとしたら聞くのはまずい。
そう思うとやはり明希からの報告を待つほかない。
「大丈夫。うん、大丈夫。」
自分にも言い聞かせるようにそういうと、少しだけ心が軽くなった気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
335 / 832