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〜琉side〜
「…はぁ…」
深いため息をついた琉は、1人で帰り道を歩いていた。
左手に目をやると、恋とお揃いの指輪が目に入る。
手を、離してしまった。
2度と離さないと、そう言ったはずの手を、いとも簡単に、手放してしまった。
琉は左手をぎゅっと握りしめた。
香帆とは、3年間付き合っていた。
香帆はよく行くカフェでアルバイトをしていた子で、香帆から告白されて付き合い始めた。
それが、琉が19歳の頃だ。
当時、琉は俳優を目指して養成学校に通っていた。
その頃、琉の友人と付き合っていた彼女が、琉目当てで友人に近づいたことを知り、琉は女性が苦手になっていた。
だから香帆と付き合い始めたのも、なんとなく断るのは申し訳ない、という理由だった。
すぐに別れるだろうと、そう思い、誰にも付き合っていることは話さなかった。
だが、香帆は琉のことを一途に好いてくれて、次第に琉も心を寄せていった。
琉の"初めて"は、ほとんどが香帆相手だった。
それが突然、香帆から別れを告げられた。
それは辛かったが、香帆の意思を尊重し、別れた。
今思えば、あれは恋とは、少し違ったような気もする。
それから4年。
突然の再会に、琉はかなり戸惑った。それも、会いたかった、などと言われて、混乱した。
もう、香帆に特別な気持ちはなかったが、再会が嬉しくないといえば嘘になる。
それと同時に、恋に、自分の過去の恋愛について隠していたことになるのだと、そう思った。
隠そうと思っていたわけではない。
だが、誰も知らなかった以上、恋は、琉が過去に誰かと付き合っていたことはないと、そう思っていただろう。
恋は、少なからず傷ついたに違いない。
そう考えていたら、つい、香帆からの恋は誰なのかという質問に、答えることができなかった。
そして、話したいなどと言われて、どうしていいかわからなくなった。
恋を傷つけてしまったことばかりが、頭の中に渦巻いていて、恋の手を、離してしまった。
視界の端に入った恋の顔は、ものすごく苦しそうだった。
琉には、もう一度恋の手を取ることは、できなかった。
恋を追いかけようと思ったが、自分のせいで傷つけてしまったのに、そんな資格はあるのかと、そう思った。
それも、今回が初めてではない。つい先日も、女性関係で恋を不安にさせ、傷つけ、ケンカしたばかりだった。
結局その場から動くことができず、遠ざかっていく恋の姿を見ることしかできなかった。
香帆には、また連絡すると言って別れた。
何かを話す気分でもなかったし、1人になりたかった。
「…つか、また連絡するって…どうすんだよ。」
琉はまた、深くため息をつく。
今すぐにでも、恋を探して、迎えにいくべきなのに、そうできない自分がいた。
自分は本当に、恋を幸せにしてやれるのか、自信をなくしてしまった。
自分のそばにいても、恋を傷つけるだけなのではないかとさえ思える。
琉はゲイでもバイでもない。
男に恋愛感情を抱いたのは恋が初めてだ。
恋にとっては、いわゆるノンケの自分といることは、本当に幸せなのか、琉にはわからなくなった。
「…雪…濡れてないと、いいけど…風邪、ひかないといいな…」
折り畳み傘は自分が持っている。恋は濡れてしまっただろうか。
「1人でいるのか…?大丈夫、かな…」
心配でたまらない。
でも、今の自分には何もできない。
恋を迎えにいく、資格すら、ない。
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