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〜恋side〜
迎えに来る、とは、どういうことなのか。
別れを告げに来るのか、それとも。
どちらにしても、このまま会えない。
指輪をなくしたまま、会えるわけがなかった。
「俺…会えない…まだ、琉さんに会えません…」
恋はぎゅっと拳を握り締める。
「やっぱり探してきます!」
「恋さん!」
呼び止める小雪を無視して、ホテルの部屋を飛び出す。
外に出て、下を向き、必死に指輪を探す。
駅までの道は一本道で、あるとしたらこの通りのはずだった。
「どうしよう…ない…ないっ…」
恋たちが通ってきた頃は人通りが多かったが、今は少し落ち着いていた。
とはいえ、あたりにいる人は不思議そうに恋を見ている。
唇を噛み締めて、涙をこらえて指輪を探すが、それは見つからない。
「…っ!」
ずっと下を向いていたせいで、躓いて転んでしまった。
体を打ち付けたせいで、ジンジンと痛む上に、どこか擦りむいてしまったらしい。
痛みは大したことないのに、涙がボロボロと溢れてきた。
琉からもらった、何より大切な指輪が、なくなってしまった。
見つからない、と考えるだけで、涙が次から次に溢れてくる。
俯いて、手を握りしめたそのときだった。
「…っ…な、に…?!」
「心臓が飛び出るかと思った。」
ふわっと抱きしめられて、そう言われる。
その声は、何度もなんども聞いた、愛しい人の声で
息を吸うと入り込んでくる香りも、愛しい人のそれだった。
「道端でうずくまってるから…具合でも悪くなったのかと思った…どこか悪い?怪我した?」
「ちが、くて…あ、の…ごめんなさいっ、おれ、おれ…」
指輪を落としてしまったことを伝えようと思ったが、口が思ったように動いてくれない。
「恋は謝らなくていいから。大丈夫。でも、こんな薄着で外に出たらダメだろ?風邪引く。」
優しく背中をさすってくれて、温もりを感じる。
そのせいで、また涙が溢れてくる。
「…こんなとこで、悪いんだけど、でも、俺の話、聞いてくれる?」
道の真ん中ではないとはいえ、こんなところで何を話す気なのだろうと思う。
そして思い浮かんだのは、別れ話。
今すぐここで、話をつけたいと、そういうことだろうか。
聞きたくない。
そう思って、首を振る。
「お願い。聞いてほしい。」
優しい声色でそう言われれば、首を振ることはできないが、頷くこともできなかった。
抱きしめているこの腕は、この温もりは、なくなってしまうのだろうか。
そう思うだけで、涙がまた溢れた。
だが、何も言わないことを肯定と捉えたのか、琉は大きく息を吐いた。
「…香帆とは、昔、付き合ってた。」
予想はしていたが、改めて言われるとやはり胸が痛い。
「隠すつもりはなかったけど、誰にも知られてなかったから、結果的に恋に隠すことになって、ごめん。」
この先を聞きたくなくて、琉にぎゅっと抱きついて、胸に顔を埋める。
離れてほしくなくて、離したくなくて、でも、言葉では言えなかった。
「俺の初めては、ほとんど、香帆にあげた。キスも、セックスも、香帆とが初めてだ。」
聞きたくない。
琉が離れていくのなんて、嫌だ。
その思いを、腕の力に変えて、琉を強く抱きしめる。
でも、琉はそれについては何も言わずに、抱きしめ返してくれる。
「確かに、香帆に対して、好意がなかったと言ったら、嘘になる。好きだった。でも…」
琉の声が、少し震えた。
「俺の初恋は、恋だから。」
紡がれた言葉に、驚く。
「自分から告白したのも、プロポーズしたのも、指輪をプレゼントしたのも、全部、恋が、初めてだから…」
琉の声が、体が震えていて、泣いているのだとわかる。
琉が演技以外で泣いているところを見るのは、初めてだった。
「俺は、恋をものすごく傷つけたし、最低なことをした。そしてこれからも、恋を傷つけてしまうことがあるかもしれない。」
琉は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「俺と一緒にいても、恋は幸せになれないんじゃないかって、そう思った。もしかしたら、恋の幸せは、他の人のところに、あるのかもしれない。」
琉が、恋を抱きしめる力を強くする。
「でも、俺は、恋を手放したくない。恋と一緒にいたい。たとえ俺と一緒にいることが、恋の本当の幸せじゃないとしても…俺は、恋を…恋を手放せない…」
本当の幸せじゃない、なんて。
そんなのありえないのに。
恋の幸せは、琉と一緒にいることで
恋は琉を、確かに愛しているのに
愛する人と共にいること以上の幸せなんて、あるわけがなかった。
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