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〜翔也side〜
深夜1時
「はっ…はぁ…はぁ…」
翔也は先を急いでいた。
帰り道を走り、電話をかけてみるも、相手は出てくれない。
心配でたまらなくて、早く家に着けと思う。
何回目かの電話。
コールが虚しく鳴り響くだけで、通話にならない。
「明希ちゃん…」
今日は、恋と千秋と一緒に病院に検査に行くと言っていた明希の結果が、いいものではなかったらしい。
かなり落ち込んで帰ったことを、恋から聞いた琉が連絡を寄越してくれたのだ。
そういう日に限って、仕事が終わるのが遅く、長引いてしまったりする。
明希はもう寝てしまったのだろうか。
寝ていて電話に出ないのなら構わない。
だが、もし、1人で落ち込んでいるのだとしたら。
(一緒に行けばよかった…)
今更後悔しても遅い。
とにかく早く帰って、抱きしめてやりたかった。
家に着き、大きく深呼吸して呼吸を落ち着ける。
それから、寝ている可能性を考えて、ゆっくりとドアを開けた。
「ただいま。」
声をかけてみるが、返事はない。
リビングの明かりは消えているし、そこにはいないのかもしれない。
そう思って、部屋に入る。
だが、そこに明希の姿はない。
もう一度リビングに戻って、そっと扉を開けた。
暗いリビングのソファで、膝を抱えている明希の姿が見えて、少しホッとする。
もし、何かあったらと思うと、気が気ではなかったのだ。
「明希ちゃん…?」
声をかけると、ビクッと肩が震えて、ぎゅう、と膝を抱え込む。
顔は上げてくれない。
「まだ起きてたの?もう夜遅いのに。」
そう言いながら電気をつけて、明希に近づく。
出かけて、帰ってきてからずっとここにいたのか、コートは着たままで、バッグもソファに放ってある。
暖房も付いていなくて、部屋は寒かった。
「ずっとここにいたの?風邪引くよ。」
隣に座ると、明希がまたビクッと震える。
自分がそばにいるのに、こんなに震えていることが、情けなく、胸が苦しくなる。
「明希ちゃん。こっち向いて。」
そう言うと、フルフルと首を振る。
仕方なく、そのまま明希の頭に手を乗せる。
「大丈夫だよ。」
できるだけ優しく、そう声をかけてやる。
明希が鼻をすする音が、静かなリビングに響く。
暗闇が苦手なはずの明希が、1人で、ずっとここで泣いていたのだと思うと、ぎゅっと胸が締め付けられた。
「そばにいるからね。」
明希が辛い時こそ、そばにいてやりたい。
「あか、ちゃん…できない、かも、って…」
「…うん。」
膝に顔を埋めたまま、震える小さな声で、ポツリポツリと話し始めた明希の背中を、そっとさすってやる。
「ちりょう、しないと、ぜつぼうてき、だって…」
「うん…」
「しょうやさん、も…とうさんも…こども、みたいって…いってた、のに…」
明希は話しながら、また泣き出してしまった。
確かに、翔也も子供は欲しい。
それが、明希が産んでくれる子だと思えばなおさらだ。
だが、明希がそばにいるだけでも、十分幸せなのだ。
「俺はね、明希ちゃんがいてくれればそれで十分だよ。」
「でも…こども、うめる、おんなのひと、のほう、が…」
「俺は子供が欲しくて明希ちゃんと結婚したんじゃないよ。もちろん、明希ちゃんが産んでくれる子なら、欲しいと思う。でも、明希ちゃんに無理して産んで欲しいなんて思ってないよ。もし、どうしても子供が欲しければ、施設から引き取ることだってできるしね。」
「…っ…でも、おれ…おれ、も…しょうやさん、と、の…こどっ、も…ほしっ、かった…」
泣きながら、そう言う明希を優しく撫でる。
「それなら、ゆっくり治療したらいいじゃない?治療したら、できるかもしれないんでしょ?それなら一緒に頑張ろう?」
「おかね、かかるっ、し…しょう、や、さん、も…びょういん、いかない、とっ…だめ、で…」
「お金のことなんて気にしなくていいよ。それに、一緒に頑張ろう、って、言ったでしょ?明希ちゃんが子供ほしいって思うなら、俺はいくらでも協力する。」
「ほ、とに…?」
やっと顔を上げてくれた明希の目は真っ赤に腫れていて、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「うん。ゆっくり、ゆっくりやっていけばいいじゃない?お義父さんとお義母さんにも話しに行こう。一緒に行くから。きっと助けてくれるよ?」
「っ…うん…」
「…おいで。」
腕を広げれば、明希が飛び込んできて、ぎゅうっと抱きつく。
胸に顔を埋めて、スリスリとすり寄ってきた。
「大丈夫。大丈夫だよ。」
そう言いながら優しく背中を叩く。
しばらくの間そうしていると、明希が眠ってしまったようだった。
明希をそっと抱き上げ、部屋に向かう。
ベットにおろすと、額にそっとキスをした。
そしてそっと離れようとすると、指をきゅ、っと掴まれる。
「ありゃ…シャワーは朝でいっか。」
翔也はそう呟いて、優しく微笑むと、明希の隣に横になった。
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