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〜紘side〜
1月28日
「はぁ…」
「烏沢社長?どうかなさいました?」
「ん?あぁ…すまない。」
出社してきてからずっと、ため息をつき続けている紘を見ていた秘書、本館(もとだて)から、心配そうに声をかけられる。
紘が朝からため息をついているのは、今日が千秋の受験日だからだ。
「何かございましたか?」
コーヒーを出しながら、本館にそう問いかけられる。
「あぁ…恋人が受験でね。」
「千秋様ですか?」
「あぁ。」
本館は、千秋が紘の恋人であることを知っているばかりか、毎日のように紘から話を聞かされていた。
「最近なかなか時間が取れなくて…話もできていないから、受験がどうなのかもわからなくてな…」
「千秋様は優秀な方ですから、社長のご心配には及ばないと思いますよ。」
そう言って微笑む本館は、千秋が烏沢にいた頃のことを知っている。
だから優秀だと、そう言うのだが、紘の心配がなくなるわけではない。
「優秀な子でも、受験はやはり…」
「社長、あまりそうして悩んでおられて、お仕事を蔑ろにされますと、千秋様から叱られるのでは?」
「…それは、そうかもしれない。」
千秋は、紘が思っているよりもしっかりしている。
少々しっかりし過ぎなくらいだ。
「はぁ…」
結局またため息をついてしまう紘だった。
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〜千秋side〜
「…よし。」
千秋は、一度大きく深呼吸をして、受験会場に入った。
たくさんの人がいて、少しだけ恐怖心がわく。
千秋はリュックの中から、あるメモを取り出した。
そこには恋と明希からのメッセージ。それを見ると気持ちが落ち着いた。
千秋のリュックには、お守りが付いていて、それは初詣に行った時に、紘が購入したものだった。
(紘さんは心配しすぎなんだよなぁ…)
自分より気合が入っていた紘を思い出し、千秋の緊張は完全にほぐれていた。
「それではこれより試験を開始します。指示に書かれている、机の上に出していいもの、以外は全てしまってください。」
監督員の指示が出て、教材やその他のものをしまう。
巡回があり、試験問題が配られた。
「それでは始めてください。」
問題を開く前に、まずもう一度深呼吸。
そして最初から最後まで問題を見る。
(…よし、印刷ミスはない。問題もひねったものはなかったから、前から順に…)
静かな空間で、何かをすることには慣れている千秋は、適度な緊張感をもって試験に臨めた。
「…やめてください。」
その後もいくつかの科目をこなし、試験が終了する。
何気なく隣を見ると、隣の男と目があった。
「「あっ…」」
お互いに少し驚き、軽く会釈をする。
なんとなく気まずい。
「あ、あの…」
話しかけてきたのは相手の男。
このような場で話しかけるとは、すごいコミュニケーションだな、などと千秋は思った。
だが、嫌な感じはなかった。
「は、はい…」
「高校生、なの?」
「あ、いえ…20歳です。」
「えっ、本当に!僕も!」
パァっと顔を明るくした男につられて、千秋もクスリと笑う。
「ここ、第一希望なの?」
なんだか嬉しそうな男にそう聞かれる。
「うん。」
「僕もなんだぁ…また会えたらいいね!」
「うん、そうだね。」
「ごめんね!急に話しかけちゃって…」
「ううん。大丈夫だよ。」
「じゃあ、また会えたら!」
「うん、バイバイ。」
年齢以外は何もわからなかったが、感じのいい人だったな、と思いつつ、千秋も席を立つ。
会場を出て、スマホを開けば、紘からのメッセージの嵐で、千秋は思わず吹き出してしまった。
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