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〜恋side〜
2月28日
「はい、あお……赤津です。」
先日入籍し、晴れて赤津恋になった恋。
かかってきた電話に、不慣れながらも名乗る。
『もしもし。週刊芸文の杉下と言いますが…』
「はい。」
なぜ、週刊誌の記者から家に電話がかかってきたのか、不思議に思いつつも返事をする。
『青木恋さんですか?』
「…そうですけど…」
旧姓で聞かれるのも無理はない。
まだ世間には結婚を発表しておらず、婚約した、ということになっている。
『聞きたいことがありまして、お電話させていただいたんですけど。青木恋さんの過去についてです。』
そう言われて、受話器を握る手に力が入る。
恋の過去は、あまり綺麗なものではない。はっきり言えば、琉のスキャンダルとして扱われてもおかしくないようなものだ。
『元AV男優というのは事実ですか?』
電話の向こうの声が、ひどく遠く聞こえる。
今まで知られていなかったことの方が、おかしかったのかもしれない。
だが、改めて週刊誌にこうして取り上げられるということは、明らかにまずい状況だった。
『まあDVDが出回ってますし、名前違いでなければ、事実ですよね?』
追い詰めるようなその言葉に、頭が真っ白になる。
『そもそもこの情報を掴んだのは別の週刊誌で、すでに記事化されてますから、事実で間違いないですよね?俳優の赤津琉さんと婚約しているとのことですが、どちらからプロポーズを?』
なにも言えない恋に、次々と言葉をぶつけてくる記者。
下手なことをいえば、それを記事にされてしまうし、かと言って黙りこくるわけにもいかない。
『やっぱりその体で、誘惑したんですか?』
どう答えればいいのか、全くわからない。
なにをどうすれば、これ以上琉の迷惑にならないのだろう。
すでに記事化されていると、この記者は言っていた。
ということは、今テレビをつければ、ニュースではもう話題になっているかもしれない。
その時、インターフォンが鳴る。
「…っ…すみません、来客なので…また折り返していただいてよろしいですか?」
なんとか声を絞り出して、そう言って電話を切る。
それからふらつく足で玄関に向かう。
「はい…どなたで…っ…?!」
「記事は事実ですか?」
「赤津琉さんは今家にいるのでしょうか?」
「あなたが婚約者の青木恋さん?」
わっ、と寄ってきたたくさんの記者に驚いて、何も言えなくなる。
「元AV男優とのことですが、赤津さんはそれをご存知なんですか?」
「UHグループのご子息とも関わりがあるというのは事実ですか?」
どうやら明希が友人であることまで嗅ぎつけたらしい。
次々とぶつけられる質問に、頭が真っ白になって、なにも考えられなくなる。
「す、すみません…今はなにも、お答えできませんっ…」
そう言ってなんとかドアを閉める。
ドンドン、とドアを叩かれ、インターフォンを鳴らされる。
リビングからはまた電話が鳴る音が聞こえる。
手が震えて、どうしたらいいのかわからなくなる。
フラフラとリビングに戻って、床にしゃがみ込んで、耳をふさいだ。
(どうしよう…どうしようっ…)
すでに琉にも伝わっただろうか。
これからどうしたらいいのか。
頭の中に、ぐるぐると疑問が渦巻いて、でもなに1つ解決しない。
ヴーッ、とバイブ音が聞こえて、ビクッ、とする。
スマホの画面を見ると、しょーとけーきのグループ通話の通知が来ている。
「も…もしもし…」
震える声で電話に出る。
『もしもし?!恋、テレビ見た?!』
明希にそう言われて、テレビをつける。
昼のワイドショーで、週刊誌の記事が取り上げられている。
赤津琉の婚約者、元AV男優か?
という見出しの記事。
『赤津さんとプライベートでも仲が良いことで知られる木之本翔也さんの妻のU氏と友人関係にあるというA氏。A氏は元AV男優で、U氏は良家のご子息。A氏をめぐる関係は、どこまで誠実なのだろうか?』
今まで、見るだけだったスキャンダルの渦中に自分がいる。
それも、琉だけでなく、翔也や明希にまで話が及んでいた。
『恋?聞いてる?!大丈夫?!』
「ご、ごめん…」
『あの週刊誌買って見たけど、嘘ばっかりだよ!!俺が脅されて恋と友人やってるとか、琉さんは騙されてるとか!ふざけてんじゃないの?!』
『明希、とりあえず落ち着こう?今は恋も動転してるだろうし…恋、大丈夫?そっち行こうか?』
「だめ!」
千秋の言葉に、即答する。
「今来たら…千秋にも迷惑かける…紘さんも有名人だし、そんなことできない…これ以上…迷惑かけたくない…」
泣きそうになりながら、震える声で必死にそう言う。
『恋…ごめんね、なにもしてあげられなくて…』
『ってか翔也さんの婚約者の俺が恋と友人って普通じゃない?!もし今までに関わりなくても、琉さんと翔也さんが仲いいんだから仲良くなるに決まってんでしょ?!なんでそれが脅されたとかなるわけ?!まじバカだろ!』
珍しくキレている明希がそう言う。
『とにかく、恋、あることないこと聞かれても、答えちゃダメだよ?こういうのは答えたらそれを良いように捉えられて嘘書かれるんだから。きっと琉さんたちがなんとかするし。明希ももし取材とか来ても怒ったりしたらダメだからね!』
『わかってるけど…元AV男優ってそんなに悪いことなの?!みんなAV見るでしょ!!俺見たことないけど!』
「明希…俺は大丈夫だから…迷惑かけてほんとごめん。」
『迷惑じゃない。恋は悪くないもん。翔也さんからメッセージきて、とりあえず俺のとこにはなんもないと思うって言われた。だから心配しなくて良い。』
「うん…」
『なにかあったらすぐに言ってね?僕でもできることがあったらなんでもするから。』
「ありがと…」
ひとまずそれで電話を切って、つけっぱなしだったテレビも消す。
そうすれば、また電話とインターフォンの音が耳に入る。
1人が、たまらなく怖くて、心細くて、恋は無意識にリビングの端に寄って、膝を抱えた。
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