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〜恋side〜
1日目は、広島市内を観光して、お昼にはそばを食べた。
夜は宿についていた温泉に入り、迎えた2日目。
「わぁ…すごい。」
安芸の宮島と呼ばれる、厳島に足を運んだ4人。
日本三景の1つとして有名な、厳島神社を一度は見たい、ということでやってきたのだ。
「やっぱ綺麗だな。」
目を奪われて、あまり会話をすることもなく、景色に見入る。
ふと、琉にも見せたいような気持ちになり、写真を撮影して、メッセージに送っておいた。
厳島神社についてだけは、事前に色々と調べておいたので、かなり満喫することができた。
フェリーに乗らなければならないのが、恋としては1番厄介だったが、なんとかそれも乗り切って、楽しむことができた。
「さて、今夜はどうします?」
夕焼けを見て、市内に戻ってきた恋たち。
ちょうど時間は夕食どきだ。
「せっかく広島来たんだし、お好み焼きでも食おう。」
傑がそう言い、恋たちも頷く。
時間が時間だからか、並んでいて、恋たちも列の最後尾に並んだ。
しばらくそこで、他愛もない話をしながら待っていた時だった。
「君、1人なの?ちょっと一緒にどう?」
すぐ近くで、酔っ払った男3人に囲まれている、小柄な青年が目に入る。
青年はキョロキョロと辺りを見回していて、もしかしたら連れとはぐれたのかもしれないと思った。
「なんか、やな感じ…」
明希がポツリと呟く。
「ねぇねぇ、俺たちと一緒に遊ばなーい?」
ここが繁華街のせいか、ナンパを止めようとするものはいない。
大声で話す男たちの声は、いやでも耳に入ってきた。
青年が何か言い返している様子はない。
「にーちゃん、話さないなんてつれねえなぁ。まあ今から俺たちがイイコト教えてやるからさ。」
さすがに恋たちはこれには顔を見合わせた。
青年の肩を抱く男。青年は一瞬、ビクリと肩を強張らせた。
「…ほっとくなんて、できないんだけど。」
「僕も同感。」
「いやいや、明希と千秋が言ってもいい餌になるだけだろうが。」
「恋が行っても同じだよ…ちょっと待ってろよ。」
「えっ、傑!」
傑が列から抜けて、その青年の方に向かう。
何やら親しげに青年に話しかけ、知り合いを装っているようだ。
「んだよてめえ!ふざけんなよ!!」
突然男が声を張り上げ、傑を殴り飛ばした。
これには周りがザワザワとし始め、そこに視線が集まる。
「ねぇ…なんかやばくない?」
「ど、どうする?」
「…ちょっと俺行ってくる。」
明希と千秋を待たせて、恋は傑の方に駆け寄る。
「傑、大丈夫?」
「おう。」
少し唇が切れてしまっている。
「おう、にいちゃんもつれてってやろうか?あ?」
恋の肩に手を置く男。
恋は顔をしかめた。
最初に絡まれていた青年はオロオロとしていて、やはり辺りを見回す。誰か探しているのだろうか。
「とあ!!」
"とあ"と呼ばれると、青年がパッ、と振り返った。
彼は"とあ"という名前らしい。
こちらに慌てた様子で駆け寄ってくるのは金髪の、怖い雰囲気の男。
傑と恋は顔を見合わせてしまった。
なんだか面倒なことになってしまったかもしれないと思ったのだ。
やってきた男は、酔っ払いを鋭く睨みつける。
傑と恋は立ち上がって、少し距離を取った。
「あんだよ、お前。」
「ナンパか?」
「だったらなんだよ?」
「俺の恋人にナンパか…いい度胸してるな、お前。」
「はぁ?」
金髪の男は、相手の男の耳元に口を寄せると何かを呟いた。
すると突然、男の顔が青ざめていく。
(やっぱやばい系の人だったのか…?!)
恋はそう思って傑の顔を見ると、傑もこちらを向く。
同じことを考えたらしい。
「す、すいませんでした!!本当にすいません!まさか、そんな、知らなくて!!」
酔いもすっかり冷めてしまったのか、男はペコペコと謝りだす。
「俺じゃなくて、そこの青年に謝ってくれる?」
金髪の男が、傑の方を向いてそう言った。
「な、殴ってすいません!!」
「い、いえ…」
「じゃ、じゃあ俺たちはこれで!本当にすいません!!」
男は、他の2人を連れて逃げるようにいなくなる。
「…悪かったな。」
金髪の男の人が、傑と恋にそう言った。
「い、いや…結局なんもしてないんで…」
男たちがいなくなったことで、周りの野次馬も散って、またいつもの繁華街に戻った。
「いや、間に入ってくれて助かった。ありがとう。」
金髪の男がそう言い、次に先ほどまで全く話していなかった"とあ"という青年が、手話でありがとう、と言った。
(話せなかったのか…それでナンパをされても何もできなかったのか…)
恋が手話で、どういたしまして、と返すと、青年は驚いた顔をして、それから柔らかく微笑んだ。
恋から見ても、可愛い人だな、とそう思った。
「迷惑かけたな。何か礼でもさせてくれ。」
「いやいや!いいですって、そんなの。なぁ?」
「う、うん。」
傑も恋も、この金髪の男は、ヤのつく自由業の方だと思っていて、できるだけ早く、この話を終わらせたかった。
もっとも、この男は恋たちに何かしてくる雰囲気はないのだが。
「ん?」
青年が、男の服の袖を引き、お好み焼き屋を指差す。
「…あぁ、あの店に並んでたのか?」
「えっ、あ、まぁ…」
「おごりだ。」
「「へ?」」
「今日は俺が奢ってやる。これで足りるか?」
渡されたのは2万円。
一体どれだけ食べさせるつもりなのだろうかと思う。
「そ、そんなにいりませんよ!」
傑が慌てて断る。
「そうなのか?」
どうも金銭感覚が不思議な人だと思う。
ヤのつく自由業の方はそうなのか?と恋は勝手に思っていた。
「じゃあこれで。それじゃ、ありがとな。」
そして1万円を手渡され、男は軽く手を上げていなくなってしまった。
店の列に戻り、明希と千秋に事情を説明すると、ものすごく驚いていた。
が、4人とも美味しいお好み焼きに、すっかり男たちのことは忘れてしまった。
あの金髪の男は、決してヤのつく自由業の方ではなかったのだけれど、それを恋たちが知ることはないだろう。
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