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〜明希side〜
程よくお酒が進んだ頃、翔也は先日の撮影でお世話になったというテレビ関係者の元に呼ばれ、明希は1人で待っていた。
どうも仕事の話らしく、2人だけで話をしている。
そのときだった。
「…君が、木之本くんの奥さんかな?」
後ろから声をかけられ、振り返る。
「…は、はい…明希と言います。」
このパーティーの主催者の山之内だった。
「初めまして。山之内です。」
山之内は、62歳のベテラン俳優で、業界では堅物で有名な男だ。
「初めまして…」
山之内にジロリと睨まれるように見られ、明希は体を強張らせる。
山之内の隣には、妻らしい女もいた。
「…本当に男が相手なのか。」
この会場で、同性のカップルは琉と翔也を含めて数組程度で、ほとんどが男女のカップルだった。
「木之本くんがね…」
山之内は翔也を気に入っているのだろうか。
「木之本くんは本当に優れた俳優でね。それに相応しい相手がいるものだと、私はずっと思っていたのだけど…」
まさか君と結婚するとは、と山之内はボソッと呟く。
山之内には娘がいて、山之内は翔也と結婚させたいと思っていたのだ。
だが、明希はそんなことを知るはずがない。
「ふん、男同士なんぞ、長く続くものか。」
山之内は、同性婚には偏見があるようだった。
「赤津くんも、AV男優なんぞと結婚して…いい俳優がどんどんダメになっていく。」
明希は何も言えなくなって俯いた。
「あなた、今時同性婚は当たり前よ。男性だって子供も産めるのよ。」
「…ふん、子供を作る予定は?」
「っ…俺は、まだ学生で…その…不妊…で…」
「あら…」
「不妊?」
チラリと見上げた山之内の眉間に、深いシワができた。
「はっ、不妊だと?男だというだけでも損だと言うのに、子も産めないのか。とんだ役立たずだな。」
役立たず
その言葉は、ずっしりと重く響いた。
息苦しくなってきて、頭がクラクラする。
「あ…あの…すみません…ちょっと、お手洗いに…」
「体も弱いのか?まったく、木之本くんはこんな男のどこがいいんだか…」
大きなため息をつかれて、動悸がする。
堪え切れなくなってふらつく。
(やばい…)
そう思ったときだった。
「大丈夫?」
ふわりと優しく包み込まれるように抱きとめられる。
「…翔也さん…」
「山之内さん、うちの妻に何か?」
「何も。」
「何も、では済まないと思いますが。」
翔也が厳しい口調でそう言う。
周りがザワザワとし始めた。
「…ふん。不妊の男のどこがいいんだ。」
チラッと見上げた翔也の顔に、怒りが浮かんだのがわかった。
「今時、同性婚は何もおかしいことではありません。それを差別するような言い方はどうかと思います。」
標準語を保っているだけ、まだ冷静かもしれない。
明希はそんなことを思いながら、乱れた呼吸を必死に落ち着ける。
「それに、妻は不妊に関しては治療もしていますし、まだ学生の妻に負担をかける気もありません。結婚は子供が全てではないでしょう。」
優しく背中をさすってくれているが、その口調は厳しいままだ。
「翔也さん…もうやめてください…」
山之内に楯突くような真似をするのは、あまり良くないように思えた明希は、そう言って止める。
「明希は黙ってて。」
優しくそう言われて、明希はどうしようかと思った。
「木之本くん…君はもっと優秀な俳優だと思っていたよ。」
山之内の表情が、厳しいものになる。
「私にそんなことを言って、この業界で生き残れると思うのかね?」
「愛する妻を傷つけてまで、この業界で活躍したいとは思いません。では、俺はこれで。」
翔也はきっちりと頭を下げると、明希の体を支えながら、会場を出ようと扉に向かう。
「おい、翔也。」
「木之本、落ち着けよ。」
「今出ていくなって。」
琉をはじめとした俳優仲間が止めてくれるが、翔也は微笑むだけで止まらない。
恋からも、心配そうな視線を感じた。
「悪いな、琉。先帰る。」
「翔也…」
「明希ちゃんの具合も悪そうだし。もしかしたら薬の副作用かもしれないから。」
「…わかった。」
琉は結局、それ以上止めることはせず、翔也と明希は会場を後にし、帰宅した。
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