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〜紘side〜
20時
「ただいま。」
帰宅して、そう声をかける。
だが、千秋からの返事がない。
浴室からシャワーの音が聞こえるから、風呂に入っているのだろう。
ネクタイを緩め、ジャケットを脱いで部屋に置く。
ふぅ、と一息ついてからリビングに向かった。
ところが、なかなか千秋が出てこないので心配になり、洗面所を覗いた。
「千秋?」
「あ、紘さん…お帰りなさい。」
鏡の前でぼーっとしていた千秋に声をかけると、千秋はハッとして笑顔を作る。
どこか、いつもと違っている。
何が違うかと言われれば答えられる自信はないが、なんだか違和感があった。
一目でわかる違和感もあった。
いつもなら風呂の後はすぐに服を着てしまう千秋が、裸のまま立っていた。
千秋は火傷の痕を、紘にさえ隠したがる節がある。
大勢の前で背中を晒す時、例えばプールや温泉などは、火傷を隠すメイクを施すらしいが、家ではわざわざそんなことをしない。
だから、千秋は紘の前で着替えたり、風呂に入ったりはあまりしない。
そんな千秋が、服も着ずに何かを考え込んでいるのだ。
「千秋。」
バスタオルで千秋を包むようにして、そのまま腕の中に収める。
「あっ、紘さん、濡れちゃう…」
「大丈夫。それよりきちんと拭かないと風邪を引く。」
「さっき上がったばっかりですから…」
「…何か、あったのか?」
そう聞くと、千秋が振り返る。
「何もないですよ。ちょっと課題のこと考えてたんです。」
千秋はそう言ってニコッと笑う。
「紘さんもお風呂入りますよね?入ってる間にご飯温めておきます。」
するりと腕の中から抜け出した千秋は、サッと服を着て脱衣所を出て行ってしまう。
課題のことを考えていたにしては、思いつめすぎだ。
学校で何かあったのかもしれない。
いじめられたのか、勉強に追いつけないのか…
つい先日までは、仲良くなった友達の話を嬉しそうにしてくれていたから、いじめられているということはないと思う。
勉強に追いつけないのなら、それくらいは話してくれるはずだった。
(何があったんだろう…)
ワイシャツを脱ぎながら、考えてみるが、答えは見つからない。
もしかしたら自分には言いたくないのかもしれない、とも思う。
恋人だからなんでも話せる、というわけでもない。
言いたくないことを無理に言わせるのは嫌だった。
服を脱いで、浴室に入る。
頭から熱めのシャワーを浴びて、余計な考えは無くす。
紘は、千秋が自分から何かを言うまでは、触れないことに決めた。
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