アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
*281
-
〜千秋side〜
「ね、千秋!次あそこ見てもいい?」
「うん、いいよ。」
楓と2人でショッピングモールにやってきた千秋は、楓の見たいお店に付き合いつつ、楽しんでいた。
でも、心のどこかでは楓に嘘をついていることに対する申し訳なさや苦しさがあり、今目の前のことに集中できない。
「…き?……あき?ちーあーき!」
「ごめん…なんて言った?」
「千秋はどっちが好き?って…具合悪い?大丈夫?」
ボーッとしていた千秋を心配して、楓がそう言ってくれる。
「大丈夫だよ。ちょっと、お腹空いちゃっただけ。」
「じゃあ、先にご飯にする?」
「ごめんね。」
「ううん、いいよ!僕もお腹空いてきたし!」
ショッピングモールを出て、通りを歩く。
「何食べたい?僕牛丼食べたいなー!」
「牛丼…?僕食べたことない。」
「えっ!!千秋牛丼食べたことないの?!嘘ぉ?!」
「食べたこと、ない。」
小さい頃の家族の外食はファミレスが多かったし、聖川の家では外食というより、出前が多かった。
烏沢にいた時は、高級レストランだった。
1人で入る勇気もないので、千秋は牛丼屋には入ったことがなかった。
「すっごく美味しいよ!食べてみよ?」
「うん。気になってはいたから…」
「わー、じゃあ牛丼初体験だね!にしても、牛丼食べたことないとか、千秋はお坊っちゃま?」
「いや…そんなことは、ないんだけど…」
「まあ食べたことない人もいるよね!」
楓はこうやって、なんでも受け入れてくれる。
こういう性格だからか、専門学校の他の友人からも相談を受けたりしているのを見たことがあった。
(楓なら…話したら、ちゃんと…わかってくれるかな…)
紘のことを、話してみようと、そう思う。
だが、その思いは、簡単にくじける。
「…あれって…烏沢紘、だよね…」
牛丼屋からちょうど出てきたところの紘を見て、楓は冷たい表情になった。
これほどまでに、烏沢を憎んでいる楓。
話すのは、怖い。
楓を、友人を失うのは怖かった。
ふと、紘と目が合い、紘がこちらに気づいた。
「ちあ……」
「楓、早く行こう。」
紘はきっと、千秋を呼ぼうとしたのだろう。
でも、今ここで呼ばれたら。
楓はどう思うだろう。
そう考えると、紘とは目が合わせられなかった。
「あ、うん…」
楓は通り過ぎる時、チラリと紘を見ていたが、その視線はものすごく鋭かった。
紘を、無視してしまった。
酷いことをしたとわかっている。
でも、それ以上に、友人の楓を失いたくなかった。
「てか…烏沢紘でも牛丼食べるんだ…」
妙なところに食いついた楓がそんなことを言う。
確かにそれは、千秋も驚いたことではある。
紘だって、牛丼は食べたことがないだろう。
「普通にTシャツとジーンズだったし…なんか、ちょっとだけイメージと違った。」
「そう、なんだ…」
千秋からすれば、あれは紘のいつも通りで、仕事の時以外はスーツは着ないし、夏はジャケットも嫌う。
本当はネクタイが嫌いだし、庶民的なご飯が大好きだ。
お金は千秋が学校に行きたいと言ったから稼ぎたいと言い出したし、本当は富も権力もどうでもいいと思っている。
紘は、そういう男だ。
「…まあでも、僕にとっては仇に変わりないけど。」
楓にとっての紘は、一体どんな人物なのだろうかと思う。
きっとそれは、本当の紘ではないのだとも思う。
でも、それを口にする勇気は、千秋にはない。
だが、嘘というのは、いつかは知られることだ。
そしてその時は、思ったよりも早く、やってくる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
487 / 832