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〜傑side〜
「くっそ、案外足早いな…!」
楓を追いかける傑は、その距離をなかなか縮められないでいた。
中学、高校とサッカーをやっていたから、足には自信があるのに、思ったより腰が重い。
それはきっと、成宮がほぼ毎晩抱くせいだ。
傑はそう結論づけた。
「成宮…あいつまじで今度しばく。」
ブツブツと呟きつつも、人混みの中なんとか楓を追い、楓がやっと止まったのは、人も疎らな浜辺の端だった。
「…楓。」
声をかけると、ビクッと肩を揺らして、また逃げようとする。
千秋だとでも思っているのだろうか。
「いやちょい待ち、俺、傑。」
傑の顔を見ると、楓はため息をついて、その場にしゃがんだ。
傑もその隣に腰を下ろす。
「…なんで傑が追ってきたの?」
「千秋がよかった?」
「…あんな嘘つき、友達じゃない。」
楓の言葉に、頭に血がのぼるのがわかる。
傑は気が長い方ではない。
恋のように気を使って物を言ったりもできない。
「俺、一応千秋の友達なんだけど?あんまりそうやって悪口言われるといい気しねえ。」
「…じゃあそのお友達のとこ行きなよ。僕なんかほっといてさ。」
「それを千秋が喜ばないから俺がここにいんだろうが。」
「傑がここにいることになんの意味があんの?」
少しだけ、昔の自分に楓が重なる。
自分に向けられたその表情は、誰も信用していなくて、孤独で、本当は誰かに掬い上げて欲しくてたまらない、そんな顔だ。
成宮がいなかったら、自分はきっと、まだこんな顔をしていたのだと思う。
「お前より千秋のこと知ってるし、お前のこともわかる。」
「僕のことなんも知らないじゃん!」
「そうだな、俺はなんも知らないし、聞く気もない。俺はお前の友達じゃないから。」
そう言うと、わずかに、楓の表情が歪む。
本当は、友達だって言って欲しくて、話を聞いてほしい。
友達になりたいのに、素直に言葉を紡げない。
「でも、お前が千秋の友達だから、話聞いてやる。」
「…意味わかんない…」
「…お前が話さないんなら、俺の話、するけど?」
「ますます意味わかんないし…」
「俺はさ。」
楓の返事は無視して、話をする。
傑自身は、明希との長い時間を無駄にした。
千秋や楓には、そうなってほしくない。
「明希にひどいことしたんだよね。まあ、言うなればレイプだよ。」
自分からこの話をするのは、成宮以外には初めてで、ドキドキとする。
「明希のこといじめて、俺にだけ怯えてんの見て、優越感に浸ってた。最低だろ?」
フッ、と乾いた笑いが漏れる。
「でもさ、明希はそれを許してくれたわけ。まあそれまでには長い過程があるけど…めんどいから割愛。」
「…結局なにが言いたいの?」
「んー、そういうのが、友達、ってこと。」
「友達…」
「傷ついて、傷つけられて。人間だからそういうのっていっぱいある。けど、それを許せるのが、友達。まあ、俺のを許してもらえたのは、奇跡に近いけどさ。」
「僕にも千秋を許せってこと?」
「そうは言わない。俺は、明希に許してもらいたいって、思う資格もなかったし。でも、なんで千秋が、楓に本当のこと隠してたのか、考えてみた?」
楓は黙り込んだ。
「千秋は、楓のこと、失いたくなかったんだろ。大事だからこそ、言えないことって、あんだよ。」
「だからって、僕のこと騙してたのは、許せない。」
楓はきっと、なにも知らない。
千秋の過去や、烏沢のこと。
千秋は全部、黙ってたんだろう。
「…千秋の名前、知ってる?」
「なにその質問。聖川千秋でしょ?」
「それじゃなくて、本当の名前。」
千秋が、旅行に行く前に、傑に話してくれたことだった。
本当は、本人の口から話すのが1番いいのはよくわかっている。
けれど、このままでは、千秋も楓も、辛いままだ。
「本当のって、なに。」
「…千秋は、聖川家には養子で入ったんだよ。」
楓は驚きの表情を浮かべる。
「千秋の本当の名前は、松宮千秋。」
そう言えば、楓はハッとした表情になった。
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