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〜楓side〜
松宮千秋。
その名前は、楓にとっては生きる希望であり、闇から救い上げてくれた名前であった。
自分と同じ境遇にいる、生き残ってしまった人間。
けれど、どんなに調べても、松宮千秋は見つからなかった。
「…でも、千秋の顔は…」
何度も何度も、小さい頃の写真を見ていた。
松宮千秋の顔は、千秋の顔とは全く違う。
成長するにつれて多少は変化するにしても、あんなに大きく変わることはないと思う。
「千秋は整形してる。火事の時に火傷を負ったからな。」
「…じゃあ…なんで、烏沢紘と付き合ってるの?千秋は…烏沢財閥を憎んでないの…?」
「憎んでたさ。整形した理由は、もう一つある。別人になり変って、烏沢に養子に入ったんだよ、あいつは。」
「…どういうこと…?」
「烏沢俊蔵に復讐するために、烏沢家の養子になったんだ。」
信じられなかった。
憎い相手の養子になってまで、復讐したいなんて、どんな気持ちなのだろう、と、そう思った。
「千秋の両親が、どうやって殺されたか、知らないだろ?」
「火事、で死んだんでしょ…?」
何度も何度も資料を見た。
千秋の両親は、顔も何もわからない状態だったらしい。
「…千秋はな、その場にいたんだよ。その場にいて、烏沢俊蔵の悪事を、全て動画に収めた。それが証拠になって、事件として立件できたけど…」
親が殺されていくところを、千秋は見ていたということだ。それも、10歳という、まだ子供の時に。
その辛さは計り知れない。
そんな様子、一度も見せなかった。
「千秋の背中には、今も火傷の痕が残ってる。信じられないなら、それを見ればいい。今日は特殊メイクで隠してるらしいけどな。」
千秋は、どうして、そのことを言わなかったんだろうか。
「なんで言わなかったんだ、って、思ってる?」
図星を突かれて、コク、と頷く。
「それを話したら、他にも話さなきゃいけなくなるからだ。紘さんのことも、恋のこともな。」
「…恋?どうしてそこで、恋が出てくるの?」
「…ま、ニュースでは伏せられてたし知らないよな。あいつ、探偵の息子。」
「…え?それじゃあ…恋は、10年前の事故の…」
「そういうこと。恋は、紘さんのこと憎んでないよ。紘さんは、恋の両親の事故に、嘘の証言をしてる。でも、憎んでない。」
「なんで?僕にはわかんない。」
「それはお前が、紘さんを知らないからだよ。」
悪人の息子は悪人。
そう決めつけてしまっているのが、良くないのだろうか。
「ま、紘さんの話は、千秋から直接聞いた方がいいと思う。俺はそんなに知らないしな。」
傑は暗に、千秋ときちんと話せ、と言っているのだと思う。
「だけどな…紘さんがいなかったら、千秋は今頃死んでたかもしんないよ?」
「え…?」
「紘さんが裁判の原告なのは知ってんだろ?それは千秋が俊蔵を失脚させようとしたのを、紘さんが手助けしたからだ。それに、俊蔵に攫われた千秋を救い出したのも、紘さんだよ。」
攫われた、とは、どういうことだろう。
だんだん、頭が混乱してきた。
自分が今まで信じて疑わなかったことは、真実ではないと、そう言われている。
「真実って、必ずしも目に見えるわけじゃない。自分から動かないと、手に入んないものもあんだぞ。」
傑はそう言うと、楓の頭を優しく撫で、立ち上がって行ってしまった。
1人になった楓は、しばらくの間そこから動けずに、傑から言われたことを、ずっと考えていた。
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