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〜紘side〜
「…千秋。」
恋たちが車から出てきたのと入れ替わるように、紘は千秋の隣に座った。
「紘、さんっ…」
涙をボロボロこぼして、千秋は俯く。
「ごめん。」
そう言って、千秋を優しく抱きしめる。
「な、んで…」
「…ごめんな。」
恋と明希から、ある程度の話を聞いた。
千秋は何一つ悪くないのに、こうして傷ついてしまった。
自然と、謝罪が口からこぼれた。
戻れるなら、恋の両親の事故があったあの日に、戻りたいと思う。
そうすれば、千秋はこんなに傷つかずに済んで、今頃は家族と幸せに暮らしていたかもしれない。
「ごめんな…」
「…っ…紘さん、は…悪く、ないっ…!」
「…ううん。俺が全部悪いんだよ。」
「僕、が…隠してた、からっ…」
「千秋は、何も悪くないよ。俺が全部悪いんだ。」
千秋の頭を撫でながら、激しい自己嫌悪に襲われる。
あの時、俊蔵を摘発していれば、いろんな人の命が救われたはずだった。
全ては、自分の一つの嘘から始まったのだ。
「…俺が…悪いんだ…」
「…ちが、っう…だ、って…僕、紘さんに、あえた、からっ…」
千秋が、ぎゅっと紘に抱きつく。
胸が、苦しい。
「紘さん、は、悪くない、よ…」
千秋の言葉が、胸にしみる。
「…っ…千秋…俺が、守るから…もう、千秋のこと…誰にも傷つけさせないから…っ…」
過去は取り戻せない。
でも、未来は作れる。
「千秋はもう…辛い思い、しなくていいからな…」
紘は、千秋をしっかりと抱きしめながら、ある、強い決意をしたのだった。
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〜恋side〜
「千秋は?」
傑が戻ってきて、そう尋ねられる。
恋は視線だけを、車の中にやる。
「…泣いてんの?」
「…うん。」
千秋は、紘と話していて、今は抱きしめられている。
恋と明希が車の外に出た時もまだ、千秋は泣いていた。きっと今も、泣いているのだろう。
「楓に、話したから。」
何を、と言わなくても、なんとなくわかった。
「そっか。」
「ごめん。恋のことも勝手に話して…」
「ううん。いいよ。楓と千秋がそれで仲直りできんなら…それくらい。」
「…明希は?」
「飲み物買いに行ったよ。琉さんと翔也さんも。」
「そう…」
傑との会話はそこで終わり、無言になる。
浜辺の方では、キャッキャッと楽しそうな声が上がっていて、こちらとは世界が違うような、そんな感覚さえある。
やっと、烏沢から解放されたと思っていたのに、こうして尾をひく問題。
千秋と紘が、本当に幸せになれるのは、一体いつなのだろう。
そんな日々が、遠い未来ではないことを、恋は祈るのだった。
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