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〜千秋side〜
「えぇ?!翔也さんって弓道部だったの?!」
「うん、そうだよー。」
驚く明希と、ヘラヘラと笑いながら答える小雪。
この2人はすでに、チューハイをそれなりに飲んでいて、明希に至っては若干酔っている。
恋と千秋はセーブしながら飲んでいるため、まだ酔ってはいなかった。
「翔也さんが弓を…うひゃー、かっこいい!」
想像したらしい明希が、へにゃぁ、と笑って両手で頬を押さえる。
「僕は話しか聞いたことないけど…人気だったらしいよ、翔也さん!」
「まあそうだろうなぁ…琉さんもバスケ部で、人気だったって奏くん言ってたし…」
「あの2人イケメンだもんね。翔也さんなんか、袴着たらすごく似合いそう。」
「袴!そっか!弓道だから袴か!見たい!」
「明希ちゃんが言ったら写真くらいは見せてくれるんじゃない?」
「ですかねぇ?今日帰ったら聞いてみようかなぁ!」
ふと、千秋は、紘の昔のことをあまり知らないな、と思った。
紘が学生時代の話は聞いたことがない。
部活はやっていたのか、モテていたのか、彼女はいたのか。
千秋はそのどれも、知らなかった。
「…僕って、紘さんのこと、全然知らない…」
なんとなく気分が落ち込んでしまう。
楓のことがあったせいも、あるのかもしれない。
「んー、でもそれ言ったら、俺も琉さんのことそんなに知らなかったよ?今は奏くんから聞いたり、元カノに会っちゃったりしたから知ってるだけで…」
「千秋より紘さんのこと知ってる人なんていないと思うなぁ…」
「そう、かなぁ…?」
「だって、俺たちは、紘さんが烏沢でどうやって過ごしてきたかも知らないし…それに、紘さんがどれだけ傷ついてるかわかってあげられてるの、千秋だけだよ。」
明希は優しい声でそう言ってくれた。
「明希の言う通りだな。千秋がいなかったら、紘さんは今頃笑ってなかったかもしんないし。」
「千秋も紘さんも、2人で一つって感じだよね!」
「それは僕も思うよ!紘さんって千秋ちゃん溺愛!って感じだしさ。2人一緒だから幸せになれるって感じに見える。」
小雪はニコニコと笑ってそう言った。
そう言われると、なんだか嬉しい。
「…僕、楓にもわかってほしい…」
そしてポツリと溢れたのは、千秋の本音だった。
「紘さんは、本当はものすごく優しくて、誰よりもあったかい人で…僕を大切にしてくれて…」
話していると、涙が滲んでくる。
もっと早く、楓に話していれば何か変わったのか、ずっと隠せていれば、今も笑っていられたのか。
そのどちらも、意味はないように思えた。
早く話していても、結果は変わらなかった気がするし、隠していても、本当に笑顔にはなれない。
「…楓は…わかって、くれないかな…?」
唇を噛みしめると、ふわりと抱きしめられる。
「千秋ちゃん…僕は、さっき話しを聞いたばかりだし、その子のことよく知らないけどさ…千秋ちゃんがそんなに思い詰めることないと思うよ?本当に友達になれる子なら、きっと千秋ちゃんのことわかってくれる。それができないならその程度の子だったってことなんだよ。」
小雪の言い方は、冷たいようで、優しくて温かい。
千秋が傷つかないような、気遣いがされている。
「千秋ちゃんは悪くない。それに、紘さんの良さなら、僕たちはもうわかってるもん。わかってくれる人はわかつてくれるんだよ。それを理解しようとしてくれるかどうかは、もう、その子次第だから。」
小雪の手が、優しく背中を撫でてくれる。
「だからね、千秋ちゃんはそんな顔しなくていいんだよ。なんにも心配しなくていいんだよ。」
「千秋には俺たちがついてるから!俺たちはずーっと友達だよ!」
明希が、明るい笑顔を浮かべて、はっきりとそう言ってくれる。
恋も隣で微笑んで、頷いてくれる。
「離れないから。」
恋のその一言は、千秋をものすごく安心させた。
「…あり、がとっ…」
「よーし!千秋ちゃん、今日はさ、帰ったら紘さんに学生時代のこと聞いてみて?!それで僕たちにも教えて!」
小雪が明るい声でそう言って、顔を覗き込んでくる。
千秋は涙を流しながらも、ニコリと笑って頷く。
「ほらー、泣かないで!可愛い顔が台無し!」
涙を拭ってくれる小雪は、兄のような、母のような、なんだかそんな優しさを感じさせた。
この数日、ずっと悩んでいたけれど、もうこれで吹っ切れた。
あとは楓を信じて、待つしかない。
千秋は、そう思った。
そのあとは、4人でしばらく話してから、解散して、千秋と明希は、自宅に帰った。
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