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〜洸大side〜
9月21日
「ふぅ…」
今日は店を休みにして、中の掃除をしていた。
いつもはできない細かいところまで掃除をすると、ものすごい達成感がある。
「うん、綺麗。」
ピカピカになった店内を見て、マスターの登坂洸大は満足気に微笑む。
ふと店の外を見ると、楓の姿があった。
「楓くん?」
チリン、と音を鳴らして扉を開ける。
「あっ、登坂さん!」
毎日足を運んでくれている楓は、今日も元気そうに笑う。
望月様、と呼んでいたら、それはなんだか嫌だと言われ、今では楓くんと呼んでいる。
「今日はお休みだったんですね。」
「うん。店の掃除をしててね。あ、でももう終わったし、せっかく来てくれたならお茶でも。」
「えっ、そんな!申し訳ないです。」
「どうぞどうぞ。入って。」
そう言えば、少し迷ってから、店に足を踏み入れてくれた。
「ラベンダーティーでいい?」
「はい。」
楓はここに来ると、ラベンダーティーを一杯頼んで、それを飲み終えるまでの間、洸大と話すのが毎回のことだった。
「今日はどんなお話かな?」
「んー、今日はないんですよね。」
「そっか。」
「あ、じゃあ登坂さんの恋愛の話聞きたいです。」
「え、俺の?何も面白い話はないよー。」
「聞きたい聞きたい!」
キラキラした目でそう言われると、断れない。
「うーん…初めてできた恋人は…中学生、かな?」
「えーっ、早い!」
「でも卒業と同時に別れて…高校入ってからは…何人かと付き合ったかなぁ。」
「登坂さんモテそうだもんなぁ。」
「そういう楓くんもね。」
何気なくそう言うと、楓は突然、切なげな表情を浮かべる。
「…僕はね、いつも誰かの代わりなんだ。」
そう言って、またいつものような笑顔に戻る。
「…楓くん?」
「あっ、そうそう、ここに来た時、僕失恋しちゃってたんですよ!」
話題をうまくすり替えられた気がする。
「でも、その子にはあんまり本気じゃなかったかも…振られるってわかってて、なんとなく気になってただけだし…」
「楓くん、ここでは無理しなくていいんだよ?」
そう言って、洸大は無意識に楓の頭に手を伸ばした。
「触んないで!」
「あっ、ごめん。」
「…ご、ごめんなさい…」
明らかな拒絶。
怯えにも見えた。
「…その、ごめんなさい…僕…」
「いやいや、お客様を撫でようなんて、良くないよね。」
そう言って微笑む。
けれど、気になった。
今までに見たことのない表情と、態度。
過去に何かあったのだろうかと、思わざるを得ない。
「僕……優しくされるの、怖い…」
「え…?」
「優しくされたい。ダメな時は厳しく叱ってほしい。でも、それは怖い。」
矛盾したことに思える。
望んでいることなのに、それは怖い、なんて。
「…幸せって、終わりが来るから…優しくされて、その温もりに浸ると、あとが辛いんです。だから僕に、今以上に優しくなんてしないで。」
そう言って微笑む楓は、あまりに脆く崩れてしまいそうだった。
「…今日はもう、帰りますね。ごちそうさまでした!」
代金より多いお金を置いて、楓はバタバタと出て行ってしまう。
何も、言えなかった。
楓の過去を詳しくは知らない。
ただ、洸大にはあらゆるところから情報が入って来る。
先日、楓を見たある客が、楓の家族の話を持って来た。
なんでも、烏沢事件の被害者らしい。
けれど、楓の過去がそれだけとは思えなかった。
確かに、家族にそんなことがあれば、恋愛どころではなくなったり、無意識に感情を押し殺したりしそうではあるけれど、あれは。
「…恋人と、何か…あったんじゃ…」
客には、必要以上に入れ込まないのが洸大のスタンスだ。
なのに、楓は放っておけない。
放っておきたくない。
あのまま1人で、閉じこもっている気なのか。
それではいつか、限界が来るのに。
「…心配、だなぁ…」
洸大はそう呟き、これからどう接するべきか、考え始めた。
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