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〜楓side〜
「こんばんは…」
「いらっしゃいませ…!楓くん!」
楓は恋の家を出てから、LUNAにやってきた。
いつものカフェとは姿を変え、バーになっていた。
登坂は楓の姿を見ると、ニコリと笑ってくれる。
(よかった…いつも通りだ…)
「来なくなっちゃったのかと思ったよ。」
「すみません、ちょこっと忙しくて…」
「学生だもんね。」
いつも通りカウンター席に座る。
バーになっているからか、他にもカウンターに座っている人がいる。
「マスター、いつものいい?」
「はい、すぐにお作りします。」
登坂は慣れた手つきでカクテルを作り、客と少し話してから楓の前に戻ってきた。
「どうする?いつもの?」
「…お酒、ください。」
「何にする?」
楓はお酒は強い方ではないからイマイチわからない。
どう答えようか迷っていると、1つ空けた席に女性が座った。
「洸大、いつものいいかしら?」
「はい、ユミさん。」
カクテルではなく、ウイスキーのロックを出した登坂。
ユミと呼ばれた女性は大人びていて、登坂と話している話題も、楓にはちっともわからないような難しい話だった。
楽しそうに話す2人に、楓は胸がキュッとなった。
登坂が優しい笑顔を向ければ、胸はズキズキと痛む。
しばらくして、登坂がこちらに戻ってくる。
「ごめんね、楓くん。」
「いえ…」
「カクテルは初めて?」
「はい。」
「それなら…」
ウォッカとオレンジジュースを使って、登坂が美しい所作でカクテルを作る。
「はい。スクリュードライバーっていうカクテルだよ。」
「わぁ…綺麗。」
透き通るオレンジ色に、思わず声を漏らす。
「これは少しウォッカを抑えて作ってあるから、飲みやすいと思う。他店に行ったら度数が高いこともあるから、気をつけてね。」
そう言われて、ひとくち口にする。
「ん…おいしい!」
「それはよかった。」
ニコリと微笑む登坂に、楓は胸が高鳴るのを感じた。
それからちびちびとそのカクテルを口にしながら、登坂と他愛もない話をする。
それがとても楽しくて、心の底から笑顔がこぼれた。
「洸大、お代わり。」
「はい。」
「マスター、次こっちもいいかい?」
「はい、お待ちください!」
ごめんね、と言って楓の前を離れていく登坂のことを目で追いながら、またカクテルを口にする。
カクテルを作る登坂は、表情がいつもとは違ってキリッとしている。
その美しい所作もあって、ものすごくかっこよく見えた。
楓の頬が、ポッ、と赤くなったのは、その登坂を見ていたからか、酔いが回り始めたからか。
ただ、その目はうっとりとしていて、はたから見れば登坂に好意を抱いていることはすぐにわかるくらいだ。
登坂を目の前にすれば、客を演じられるというのに、こうして目で追う時の表情は、ごまかせなかった。
もちろん楓は、無意識だが。
(登坂さん…戻って来ないなぁ…)
様々な客につかまり、登坂はなかなか楓のところに戻って来ない。
フロア席にも客がいるので、当たり前といえば当たり前だが、やはり寂しいと思ってしまう。
「と、登坂さん…すみません、僕もう帰りますね。」
「あ、ごめんね楓くん。」
「いえ…あの、お代、ここに置いておきます。」
「うん、ありがとう。また来てね。」
客の相手をしていた登坂に気を使い、声だけかけてそっと出る。
そんな楓の後ろ姿に、鋭い視線を送るものが1人いたことを、楓も登坂も、気づいてはいなかった。
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