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新入社員の頃の二人
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悠紀さんからのリクエスト「入社した頃の二人、第一印象が気になっています。」とのことでした。カッチリ形にできませんでしたが、新人の二人の姿を書きましたよ!
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「打ち合わせ行ってきます。」
武本が笹川チーフに声を掛けている。打ち合わせ・・・ああ、資料を届けたついでに先方の意向を探る初期段階の訪問か。武本は出口に向かわず、そのまま笹川チーフのデスクまで行った。顔を近づけて一言二言。「わるいわね。」小さいチーフの声が後に続く。
デスクの上に乗っていたクリアファイルを何冊か武本に渡している。
さて、これはどういうことだろう。チーフと組んでいるのは俺なのに、武本が何のお節介を焼いているのだろうか。
同期のこの男、人当たりは悪くない。やさしさ溢れる好青年を絵に描いたような見た目と雰囲気。しかし自分のテリトリーをしっかり守り、不用意に入り込めない何かを持っている。もちろん相手のパーソナルスペースに踏み込むようなこともしない。人間関係においての距離感を掴む能力が高いのだろう。
俺よりずっと外回りに向いていると思うのだが、課長の意向で武本は先鋒隊とチームのフォローに回っている。ニーズの見極め、本心と下心や欲目(あくまでもビジネスにおいて)を素知らぬ顔をしながら探るのが上手い。そしてそれを伝える伝達能力も高いから、チームはうまく機能していた。
体育会系の1課と高村課長が率いる2課の違いはここだろう。過程を大事にしながら結果を得る。どんなに過程がうまくいっても成果がでない事には厳しかった。結果なくしては意味がない。過程が不毛な仕事はもっと酷いという持論は賛同できるが・・・なかなか厳しい要求でもある。
大学生という身分が取り払われ、社会人という大きな枠組みの中に放り込まれる。自分と同じ初心者もゴロゴロしているが、社会人の大部分は先輩だ。彼らの経験値に遠く及ばないまま同じ土俵に上がることを強いられる。誰もが通った道だと言われればそれまでだが、とにかく毎日を乗り切るだけで精一杯。そんな俺と違い、武本は着々と経験を積んでいるように見える。自分が情けなくなるほどに。
チーフから受け取った資料をカバンに押し込み武本は振り返った。オフィスに戻った俺と出ていく武本。
「おつかれ。」
柔らかい笑顔とともに言われた言葉は挨拶みたいなものだとしても、充分労いに聞こえる。
そう、武本はそういう男だ。人の気持ちを柔らかくする。
「トーキに行くのか?」
「うん。あと一件はお使いみたいなものだから、それほどかからないと思う。」
「お疲れ。」
「何件か折り返しが必要な連絡があるから、メモ見て対応してくれるか。」
「わかった。」
武本は労いと仕事の伝言を俺に言って出て行った。年齢を重ねれば重ねるほど、どんどん差が開いていく未来が見える。同期に置いていかれるのは気持ちのいいものではない。
やれることを一つずつやる。能力がないのに高望みをしても意味はない。そう自分を納得させて机に向かう。折り返しが必要な電話ね・・・いい話であってくれ!そう願いつつ机に貼られたポストイットに手を伸ばした。
<<そして17:00すぎ・・・
日報を書く前に休憩を取ることにして自販機に向かった。外回りが終わって仕事が完了するわけではない。日報、報告書、データの整理・・・実績を得る代わりに業務が増える。やればやっただけ仕事が増えていく状況こそ理不尽ではないか?そんなことを考えるが、周りは皆それを黙々とこなしている。3年もすれば今の状況こそが日常になって当たり前にこなせるようになっているはず。そういう不確かな期待をしてしまう俺は甘ったれだ。
この調子なら休みの日はオーブン料理でストレス発散だろうな。
ガゴン
取り出し口に勢いよく落ちてきたペットボトルを掴み、つり銭を取り出そうとしたところに武本がやってきた。
「おつかれ。」
またしても労い。
「お疲れ。」
素っ気なく聞こえるんだろうな。俺の労いは。
武本は小銭を自販機に入れるとミルクティーのボタンを押した。そういえばいつもミルクティーを飲んでいる。
「それ好きなのか?」
「そうでもない。でもラテがないからミルクティーで妥協。」
ラテが好きなのか、知らなかった。
武本は俺が手にしているペットボトルを見て言った。
「飯塚はいつも違うのを買うんだな。」
「・・・特に決めていないから。」
俺が飲んでいる物に興味を持っている?まさかな。それを言ったら俺だって同じじゃないか。武本がミルクティーしか買わない事を知っている。
「で?笹川チーフのは突発?」
コクリと一口ミルクティーを飲んだあと、俺の言った事に思いを巡らすように視線を外した。ペットボトルから口を離したあと、俺に視線を戻す。
「あれはついでだから突発でもなんでもない。チーフは今日打ち合わせだったけど先方の都合でキャンセルになったんだ。ただ資料だけは先に渡しておきたいって外出の予定だったけど。」
「けど?」
「今日チーフの体調イマイチだろ?だから資料置いて来る程度なら俺でもできるし。どっちにしろ出ることになっていたから。」
「体調の事は何も言っていなかったよな。」
普通に朝礼してミーティングで今日の確認をした。その時何も言っていなかったし、具合が悪い素振りはなかった・・・と思う。
「風邪か?」
武本は何やら言いにくそうにしている。どういうことだ?
「ああ・・・飯塚は女兄弟いる?」
いると言えば・・・いる。でもかなり遠い存在で妹と言われてもいまだにピンとこない。
「いや、いない。」
「じゃあ、わからんかもな。俺は姉ちゃんがいるし、こっちで一緒に暮らしていたから・・・さ。」
へえ、一緒に暮らしていたこともあるのか。あれ?確か実家に戻ったとか何とかだったよな。
「言ってしまえば、女性特有のアレだよ、毎月大変になるってやつ。」
「・・・あ。」
「そんなことミーティングで言ったりしないだろ?でも見たらわかるし。顔色悪い、動きが鈍い、だるそう、こわそう。そう考えると女性は大変だな、ってか強いよな。普通に仕事している。」
全然気が付かなかったし、気にしたこともなかった。チーフの状態を察して「ついでに行ってきま~す」って?なんだよそれ。
「なんだよ飯塚、変な顔して。」
「いや・・・あまりこういう話はしたことがないから。」
「まあ、そうだよな。俺の場合姉ちゃんが具合悪くなると看病しないとならんし、こき使われるから。だいたいそのスパンがわかって備えるのが当たり前になった。俺だって普段はこんな話しないよ。なんで飯塚には言えたのかな?」
俺が聞きたいよ。
「それはそうと、トーキはね・・・ロットを切り崩して「お試し」を餌にしたらいけるかもしれないな。」
「ロットをか?最小ロットは決まっているだろ?」
「そう、決まっている。俺の判断ではそれをどうこうできないし、確約もできない。でも課長とチーフにやってもらえばいいかなって。最終的に崩したロットの全数が捌ければいいわけだろ?」
「そりゃそうだけど。」
「できないことはできる人にやってもらうのが正解。無理したって俺や飯塚には条件を変えることなんかできないしね。切り崩しは無理って課長が言えば、また違うアプローチを考えればいいさ。」
「武本の思考回路は明確だな。」
「何言ってんだよ、諦めが早い粘りのないダメダメ君ってことだ。」
「『何言ってんだよ』をそのまま返す。無策で行き当たりばったりの俺はどうすればいいんだよ。」
「そのくせ結果だすじゃん。」
「武本がいい情報拾ってくるだからだろ?」
ミルクティーを飲み干しペットボトルをゴミ箱に投げ入れると、可笑しそうにクスクス笑いだした。なんだよ、笑われるようなこと言ったか?
武本は楽しそうに笑顔を浮かべているから・・・いいかと思ってしまう。
「飯塚、今日の仕事終わったら飲みにいかないか?」
「今日?」
「予定あるならいいけど。」
「・・・いや、ないけど。」
「正直近寄りがたい男前の同期に腰が引けていたんだけどね。」
「なんだよ、それ。」
「お互いの得意な所を出し合っていけば、もっと結果につながると思わないか?」
「・・・かもしれないな。」
「そのためにはお互いの距離を縮めないと。」
軽い気持ちで言ったであろう武本の表情にドキリとしたあとワクワクしてきた。どんどん置いていかれると半ば諦めていた俺の気持ちが上向いたせいだろう。一人で成長できないのなら、誰かと競争すればいい。追い越したり、追い抜かれたりしながら結果前進すればいい。
課長の言う過程と結果は武本となら得られるという根拠のない確信。
「日報やっつけて飲みにいくか。」
「そうしよう。米風亭でギネスを飲むのはどう?俺あそこのジャーマンポテトが好きなんだよね。」
「本家のジャーマンポテトとは別物の?」
「そ、ほのかに中華風だよね。」
「あれは生姜じゃないかと俺はみている。」
「ええ?飯塚、そんなことわかるのか?俺は全然わからなかったぞ?」
俺達はオフィスに向かいながら自然と会話を続けていた。
今までの息苦しさから解放される予感。
もっと仕事が面白くなるという確信。
武本とならもっと楽しい時間を過ごせるだろう、それが嬉しかった。
ギネスとジャーマンポテトか・・・悪くない。
〆はもちろん油そば。酢とラー油をたっぷりかけて食べてやる。
独り黙々とオーブン料理をする自分の姿はすっかり消えていた。
・・・きっと・・・何かが始まる。
今日をきっかけに。
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札幌にある「米風亭」というお店。昔はクアーズの生があったのですが、今はない、残念。
私高校生の頃から行っておりました(はい、内緒ですよ、しーーーぃ)
ジャーマンポテトなのでじゃが芋・玉ねぎ・ベーコン、さらにピーマンも入っています。そして醤油と生姜が、じゃが芋に合っているし、なによりビールと最高の相性です。
油そばはご存知の方も多いのでは?一時期大泉洋がテレビで紹介していましたので。「嵐にしやがれ」の時は熱く語る洋ちゃんを半笑いで弄る嵐メンバー。私もテレビの前で言いましたよ「美味しいんだって!本当に美味しいんだって!」(通販もしておりますw)
二人の第一印象は?
衛「出来るヤツ。でも入り込めない近寄りがたい何かをもっているな。」
理「なんだ、この無駄に男前。引くな・・・同じ男として。」
そこから始まる二人の時間。
笹川チーフの様子に気が付いた理は観察力があります。それはSABUROでも実証済。だから衛の一貫性のないドリンクチョイスにも気が付いた。
衛の場合はあまり他人を気にしないタイプ。でも理のミルクティーは把握していた。
このあたり、現在の二人の関係みたいですよね。
そして衛、このころからすでにオーブンとお友達ですww
<おさらい>
「こわそう」は北海道の方言です。
具合が悪いことを「こわい」と言います。前にもでてきましたね~(どこだったかな・・・)
悠紀さん、リクエストありがとうございました。
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