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匠 2
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手間暇をかけて作られた食事は人の心も優しくする。体も心も満たしてくれる。
「こちらチキンとキノコのミートパイになります。こちらは鮭のココナッツ煮込みグリーンカレー風味になります」
「美味しそう。どっちも食べたいかも・・・・」
運ばれてきた料理を見て、上原は目を輝かせて喜んでいる。
本当に幼い表情をする。そして、その表情が出るのが俺の前だけだとうことに最近気がついた。まあ、こんな顔は誰にも見せたくないから丁度いい。
「取り分け致しましょうか」
ここではスタッフが近過ぎず、それでいて遠過ぎない距離でいてくれる。ありがたい。
サーバーを使いどう切り崩すか悩んでしまいそうなミートパイを器用に取り分けてくれた。
おいしい料理、目の前には愛しい人。心地良い空間でアルコールも食事も進む。
やっぱり上原は食事の仕方が綺麗だと思いながら見ていたら、上原の顔がだんだんと赤くなっていった。
「・・・匠さん・・・穴が開きそうですから、少し視線外してください」
俯き加減で小さい声でそう言う。ぷっと吹き出すと耳まで赤くなって下から睨むように見上げてくる。本当に今日はホテルを別にしておいて良かった。
「蓮、そろそろホテルに戻るか。すみせん、コーヒー二つ頂けますか。蓮、何か少し甘いものでも食べるか?」
「それでしたらジャンドゥーヤはいかがですか、コーンのジェラートです。せっかくこちらにいらしたのですから是非他では味わえないものを」
そう言われて蓮は「それにします。」と更に幼い顔になった。
コーヒーを飲み終え席を立つと、旧知の友人宅を訪ねたような居心地の良さと、楽しい時間を提供してくれたスタッフに礼を言った。
今日、武本さんと一緒にいた男前さんにも挨拶をしたかったが店内の人の多さからそれは迷惑だろうと遠慮した。
「美味しかったとシェフにお伝えください。それと明後日の土曜日の昼、食事をしたいのですが大丈夫ですか?」
「もちろんです。お待ちしております。まっすぐホテルへお戻りになられますか。もし、お時間が許すようでしたら、ホワイトイルミネーションご覧になってはいかがでしょうか?」
「ああ、そう言えばニュースになっていましたね」
「ええ、会場を歩かれるのも良いですが、さっぽろテレビ塔からご覧になると違った角度から楽しめますよ。明日、お仕事でしたら混雑した会場を回るのも大変でしょうから」
帰るのが名残惜しいような空間にもう一度足を踏み入れたくて札幌での最後の食事はここでと予約を入れた。そして、ふたり並んでテレビ塔の展望台へと向かった。
大通り公園のシンボルであるテレビ塔の展望台に上がる。冷えて澄んだ空気の中、夜景とイルミネーションが二重奏となり引き込まれそうな美しさを放っている。
「綺麗・・・」
窓に張り付くようにして眺めている上原の顔が夜の硝子窓にリフレクトして、その笑顔の向こうに見える明かりの渦と重なる。その光景にのまれる。
「匠さん。来年も、再来年もまたこうやって二人で・・・・二人でここに来たいですね」
「もちろん、蓮がそう望むのなら」
再来年も?とんでもない未来永劫お前の手を離すつもりはない。例え離してくれと頼まれても無理な相談だ。お前が思っている何十倍も俺は独占欲が強いし、嫉妬深いよ。
SABUROで誰にともなく自分が牽制をかけていたことを思い出しておかしくなった。誰が上原を見ていたわけじゃない。勝手に俺が仔犬の所有権を主張していただけのこと。
多分、鈍感な上原は気がついていない。明日の会議が終わったら、早速ホテルを移ってもらわないといけない。そろそろ、お預けも辛くなってきた。
「蓮、明日の夜の懇親会は何時まで?」
「7時半には終わります。同じホテルの隣の会場で軽い会食だそうですから」
「そう、じゃあ7時半にホテルのロビーで。アルコールは飲むんじゃないよ。いい子だから俺の言いつけは守れるね」
「はい」と小さく返事をすると上原はそっと俺の手を握った。
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