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匠 4
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上原の背中が白く夜景の前に浮かび上がっている。綺麗な稜線だ。丸みを帯びた曲線ではないが、肩から腰にかけてのなだらかなラインがいい。
腰をつかんで手前に引くと上原の頭が両腕の間で少し沈み込んだ。上原は両腕を俺が置いた場所にまるで、しっかりと縫い付けられたようについていて動かすことはしない。
本当に言うことを素直に聞く。やっぱり俺の仔犬。
腰の窪んだ所に口づけを落とすと、上原が小さく声を上げた。それでも両手はしっかりと窓についたままだ。
「連、おいで」
そう声をかけると、上原は頭だけをこちらに少し向けた。手は窓にしっかりとついたままだ。その姿勢に北の空の夜景に恋人を取られたような気になってしまった。
上原の手を窓からはがすと、冷たくなった手を包み込んだ。
「お前の手・・・すっかり冷たくなってる」
「そ・・う・・です・・か・?」
両手を包み込まれてぼんやりと俺の顔を見つめる。眼鏡をかけてない時の焦点の合わないこいつの顔は本当にまずい。その目が薄らと色をはらむとき、無性にその表情を壊して、歪めてやりたいという願望に囚われる。こいつはいつも俺に劣情を抱かせる。
手を取ってベッドに移動する。横になった上原の肌の上をつつと手を滑らせる。それだけで上原の身体が跳ねる。
「匠さん、もう・・・」
「お前のためだよ蓮。お前を傷つけないように俺は慎重なんだよ」
正直、昨日の夜からのお預けが、きついのは俺の方なんだがと思う。上原は恨めしそうな目で俺を睨んでいる。その表情が可愛くて、もっと俺を求めて欲しくてわざと時間をかけてゆっくりと上原の中を探る。
「ん・ね・・・もう・・・」
「何が?どうしたの蓮?」
「・・・意地が悪い・・今日」
「蓮、お前昨日のあの店のウエイターを目で追っていただろう」
「え・・・い・つ・・?」
別に上原には身に覚えが無いだろう。単なる言いがかりだから。何でもいい、とにかく泣かせて俺が欲しいと懇願させたい。
「なんで・・今そんなこと・・・」
上原にもこれが言いがかりだということは解っているのだろう。それでも、こうやって難癖をつけられているのに一生懸命に愛していると伝えようと素直に泣きついてくる。
「たくみ・さん・・・だけですから。俺が、欲しいのも・・・こうやって苦しくなるのも・・・」
ふわっと泣きそうな顔になる。その表情に満足して、上原の体の上に体重を乗せた。
「知っている」
こうやって何度も確認しなくてはならないほど、俺は不安で仕方ない。上原はそれを解っているのだろうか。失うことを恐れているのは実際は自分より俺なんだと言う事実を。
一つになることができても、別の体の中に心が存在することが自体がもう怖い。いつか俺の元から旅立ってしまうかもしれないという恐怖に耐えている。
匠さんしかいない。そう何度も口にさせて刷り込んでいく。そう、お前には俺しかいないんだよ、蓮。だからこの手を離すなと。
指を絡めて手を握り締める。重なった手に愛しそうに頬を摺り寄せてくる。
「降参だ。俺が焦らしているつもりだったけれど、待てないのは俺の方らしい」
そう小声で告げると、上原が嬉しそうに俺の顔を見て笑った。
「大丈夫ですよ。匠さんより欲しいものなんてこの世にありませんから」
その一言は、俺の余裕を失わせるには十分な力を持っていた。
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