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7.伝えたかった気持ち4
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いつの間にか、俺はびしょ濡れになっていた。周りでは雨の音がうるさく鳴っている。
全身の鈍い痛みで、意識が無くなる直前の状況を思い出す。どうやら俺はあのままベンチで寝てしまったようだ。その後に雨が降り出して、このザマというわけか。
それにしてはおかしいな。俺はびしょ濡れだし、雨の音もしているのに、何故だか雨に打たれる感覚が全くない。全身水浸しになって皮膚感覚がなくなってしまったのだろうか。
とにかくどこか室内に移動しなければと、重たい瞼を無理やり上げる。
これは予想外だった。俺の視界の上方には紺色の傘が広がっていた。つまり、今俺の横には誰かがーー
「大丈夫……ですか……?」
「あ……」
ーーいた。
「あっ、す、すみません、迷惑、でしたよね、僕なんかが……」
1ヶ月ぶりの、どもり気味の話し方。
「あの、貴方が僕の忘れられない人にあまりにも似ていたので………」
1ヶ月ぶりの、照れた顔の頬の赤さ。
「うわああっ! なんでもありません! 今の忘れてください! 本当になんでもないです!」
1ヶ月ぶりの、大げさな慌てぶり。
「渡良瀬……っ」
全てが愛おしく思えた。
「えっ……」
隣に座っている渡良瀬を全力で抱き締める。その体温を感じたくて、俺は全神経を腕に集中させた。
その拍子に渡良瀬が傘を落とした。どんどん強まる雨足のせいで、2人ともすぐにずぶ濡れだ。それでも俺は腕に力を込めていく。
「会いたかった……」
「ほ、本当に、安藤くん……なんですか……」
俺の腕の中から、渡良瀬が消え入りそうな声で尋ねる。
「そうじゃなかったら誰なんだよ! お前に会うためにここまで来たんだからな」
渡良瀬はまだ、俺を抱き締め返してはくれなかった。
「嘘だ……。僕の知っている安藤くんは僕に『会いたかった』なんて言ってくれない。ましてやこんな風に抱き締めてくれたりなんか…………」
「信じろよ!」
ついイライラして怒鳴ってしまう。驚いた渡良瀬が僅かにビクッと震えた。
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