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1.中退の危機
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思い返せば、そのとき僕は人生で一番緊張していた。
心臓が飛び出そうなくらい脈打って、手のひらは汗だく、おまけに視線は床から動かない。こんなに近くにいる想い人の整った顔も、まともに見ることができなかった。
そんな情けない有様で返事を待つ僕に、彼は吐き捨てた。
「この際だから言っておくけどな、お前、キモいんだよ」
「キ、キモい……?」
彼の言っていることがわからず、無意識に復唱してしまう。その言葉は、僕が予想していたどんな言葉とも違っていた。僕の決死の告白を受け入れるわけでもなければ、断るわけでもない――僕の存在そのものを拒む言葉だった。
震える足から思考が止まった頭まで、全身の熱が引いていく。彼が僕に何と言ったのか理解できるようになる頃には、自分の浮かれきった行動をただ後悔していた。
「なんでいっつも俺のほう見てニヤニヤしてんだと思ったらそういうことかよ! 気色悪い」
「ボソボソ喋って何言ってんのかわかんねぇくせに毎日毎日話しかけてきてウザいし」
「だいたい見た目からしてダサいし。鏡見て嫌になんねぇの?」
矢継ぎ早に浴びせられる否定の言葉も、遠のいていく。
初めて誰かを好きになった。一人で勝手に盛り上がって、一方的に告白してしまった。
――一番大切にしたかった人を怒らせてしまった。
自分と彼は同性であり、ほとんど叶う望みのない恋であることすら忘れて。
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