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18歳以上ですか?
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次世代の星(やや★)
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こいつなら、変えられる。
そんな直感は、案外当たる。
「おいっ……高校生が、ヤクザ相手に喧嘩しとる!」
騒然とする、祭り会場。
あまりの迫力に、野次馬が野次馬を呼び、竜也達の周りは黒山の人だかり。
ヤクザに喧嘩を売る。
そんな真似、まともな奴なら先ずしない。
しない事をするから、面白い。
人々の目は、無茶苦茶な若者達へ注がれた。
何だ、コイツら。
特に、最近は京之介ばかりが目立っていた感の二人の中で、久々の竜也の暴れようは守られていただけの事はあった。
ヤクザが相手でも、負けてない。
むしろ……………………。
「この、ガキぃっ!!おま………何しとんじゃ!!」
天下の竜童会も怯む、ガキ。
仲間が、たこ焼きの焼かれている鉄板に押さえ付けられそうになるのを見て、慌てて周りが止めに入る。
それくらい、ヤバかった。
ガコッ……………………!!
「ぐは……………………っ」
組員を押さえ付けたまま飛び出す、竜也の渾身の蹴り。
喧嘩の際の竜也は、本当に研ぎ澄まされている。
相手が何人いようが関係ない。
勝つ為の喧嘩をする。
もがく組員の頭を片手で掴みながら、振り向き様に駆け寄って来た組員のみぞおちを捉え、蹴られた組員は後ろへブッ飛んだ。
「ヤクザが、シケた喧嘩すな……………何や、そのとろくさい動きは。デカい声出してビビる思うたら、大間違いやぞ」
「貴様……………………っ」
微動だにしない、竜也の佇まい。
これが、17歳。
歳を知っているわけではないが、明らかに10以上は下の子供を前にして、組員達は息を飲んだ。
自分達は、何を相手にしているのか。
「竜也……………………」
それを見つめる京之介の胸騒ぎ。
男なら、誰もが惚れる。
権力にも何にも屈しない、強さ。
夢は描くが、出来るもんじゃない。
出来ない事をするから、格好いい。
無謀だと言えばそれまでだが、男なら、強くありたいと願うだろ。
「せやから……………………」
嫌なんだ。
竜也を知れば知るほど、周囲は魅了されるから。
「そこまでにしたってくれや、坊主」
ザワ…………………………
そして、それに魅了された男がまた、現れる。
組員達の無様さを目の当たりにした木瀬が、ようやく竜也へ向けて口を開く。
「お前の言う通りや……………ウチの連中の大敗やの」
「木瀬さん…………………っ」
ニヤリと笑い、アッサリ敗けを認める。
竜童会が、たった一人の子供に敗けた?
恥の上塗りのような言葉も、その潔さに人々は格好良さを味わう。
木瀬とは、昔から既に出来上がった大人だった。
「見たらわかるやろ。こいつは、お前らの手にはおえん…………………何人かかっても、勝てへんわ。レベルが違う」
レベルが。
何を以てのレベルと言ったのかは不明だが、木瀬の一言に、組員達は黙り込む。
ガキ相手に…………………ガキ相手にと思ったが、皆納得していた。
こいつは、確かに違う。
何と言うか、醸し出す何かが違った。
「……………………ええコンビやな。久し振りに見たで、こないに根性据わったガキらを」
「当たり前じゃ…………………俺と京は、最強やねん」
自分の立場も省みず竜也達を称賛する、木瀬の心意気。
それに対して、竜也も堂々と胸を張った。
「最強か……………………まぁ、強ち嘘やないな」
「あ………………………?」
「お前、名前は?」
「名前?………………………嵩原竜也やけど。なに、後から仕返しとか勘弁やで」
「ぷ………………そこまで荒んでへんわ、嵩原」
「わっ、いきなり呼び捨てかっ」
嵩原。
そこにはもう、愛着が芽生えたかのよう。
木瀬は竜也へ向かって笑みを溢すと、呆然とするたこ焼き屋のおっちゃんを見た。
「小野田、すまんかったな………………店はウチが弁償したるさかい、今日のところはしもうてくれ」
「あっ、ありがとうございます!いつもすんませんっ、木瀬さん!」
頬を赤らめ、嬉しそうに頭を下げるおっちゃん。
いつも。
いつも、なんだ。
まるで、今の嵩原を彷彿とさせる姿。
木瀬の普段が、少しだけ覗いた。
「話はついた……………………行くぞ、お前ら」
「は、はい…………………っ」
立ち去るヤクザの風格。
竜也と京之介にとって、木瀬は初めて見る粋な極道者となった。
「嵩原竜也か……………………」
「えらいガキに会いましたね」
「えらいガキ過ぎて、柄にものう昂ったわ」
「え……………………」
人混みが開ける道を進み、木瀬は取り巻きへ一声かける。
驚いた取り巻きが顔を上げると、木瀬は上がり始めた花火を見据え、真剣な表情を浮かべてた。
「調べといてくれ…………近いうち、世界が変わるで」
「木瀬さん……………………」
世界が、変わる。
数年後、それはまんざら大袈裟ではない事を、その場にいた組員達は知る。
「……………………竜也のどアホ」
だが、気に食わないガキがただ一人。
世界が変わろうが何だろうが、どうでもいい。
周りを惹き付けて止まない心友に、腹が立つばかり。
「どアホて…………………」
振り向いた竜也は、京之介の不機嫌振りにたじろぐ。
「お前は、自分を知らん過ぎんねん。あないなヤクザ、俺だけでなんとかなったんやから、手ぇ出すな」
「ひで……………俺はただ、お前を助けとうて……」
「ンなもん不要じゃ、ボケカス。もうええ、気分が悪ぅなった…………………俺、帰る」
「ぇええっ!いや、京…………………」
形勢逆転。
ムスッと膨れっ面で自分へ背中を向ける京之介を、竜也は急いで追いかける。
伸ばした手も振り払われ、全く相手にしてもらえない。
「待ってや~っ、京ぉぉぉっ」
「うっせ……………………触んな、クソ」
ドンドン、色とりどりの花火が夜空を埋め尽くす中、皆の視線とは逆へと歩む幼馴染みコンビ。
ずっと一緒にいられると信じて疑わなかった、二人の仲の良さ。
ずっと一緒に。
運命は、何処で変化するかわからない。
これからのち、京之介の不安は形となる。
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