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スカウト
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要は、金じゃない。
「ふぁぁ………………あー、今日もよう頑張った!」
商店街の入口。
一際目立つ派手なアーケイドの下で、一際目立つ男子高生が大あくび。
長身の身体に、学ラン姿。
そこに附随する容姿は、またすこぶる男前。
「おー、竜ぅーっ。今、帰りかぁ?」
一歩進めば、そこらじゅうの店主達からお声がかかる。
明るく気さくな竜也は、何処へ行っても人気者。
「ちぃーす、タケさん!今日、三日ぶりの学校やってん♪」
「自信持って言いなっ………………ちゃんと行かんかい、学校!」
「はははっ………………ホンマやな」
響く笑い声と、にこやかな周りの目。
手の焼ける悪ガキだが、愛される。
それが、竜也だった。
「……………………あ?……………あれは……………」
いつものように、バイト先のたこ焼き屋へ向かっていた竜也は、その店を目にして足が止まる。
あれは……………………。
この真夏の最中、スーツ姿の男が一人、店から出て来た。
スーツ姿。
厳つい風体と、存在感ある佇まい。
「木瀬………………………」
木瀬さん。
そうだ、周りの取り巻きがそう呼んでいた男。
「…………………っんで、おやっさんの店……………!」
自分へ背を向け、駅の通りへと歩いて行く木瀬に、竜也の顔色は変わる。
まさか、本当に仕返し?
「おやっさ……………………」
言葉と同時に走り出す、竜也。
店は大丈夫か?
おやっさんは、大丈夫か!?
遠ざかる木瀬を追いかけたいのは山々だが、とにかくまずおやっさんが心配だ。
自分のせいで店を巻き込んでしまっては、目も当てられない。
バタバタバタッ…………………ガタンッ!
「おやっさん………………大丈夫かっ!!」
慌てて店の奥の引き戸を開け、竜也は叫ぶ。
「お?竜…………………帰ったんか」
「は……………………」
ケロッとした顔で、たこ焼きの生地を混ぜるおやっさんがポツリ。
怪我、してへんな…………?
「お………………おやっさん、今木瀬とか言うヤクザ、来えへんかった?」
「あ、ああ…………………木瀬」
その名を聞いた途端、おやっさんはしわい顔を見せる。
「あんなん話にもならへんわ」
「へ………………………?」
「ヤクザにしては、筋のあるええ男やったけどな……あかん。あの男、お前を自分にくれぇ言うてきよった」
「………………………はい!?」
自分にくれ。
何や、ソレ。
呆れたように生地の入ったボウルを作業台に置き、溜め息を漏らすおやっさんの話に、竜也はキョトン顔。
「お前は、これからの極道の世界に必要な男や。
絶対に天下を獲るから、育ててみたいと」
木瀬は、誠実に頭を下げた。
竜也とおやっさんの関係を調べ上げ、親代わりに近いおやっさんからまず話をつけに来た。
勿論、こちらはヤクザ。
大事にしてきた竜也を、1回で了解されるなんて思ってもいない。
『人の子を、なんやと思うとんな!』
怒るおやっさんに、木瀬は反論する事なく帰っていった。
「俺が、天下ぁ?……………………て、ヤクザやろ」
ヤクザです。
竜也は、引き戸の硝子へ手を突っ張り、半笑いで握っていた鞄を近くの椅子へと投げた。
必要って、アホか………………。
どう考えても大変な事しか頭に浮かばないのに、行く気になんてなる筈がない。
「そうや、ヤクザや。誰が好き好んで、ヤクザなんぞさせられるか…………………お前は、人に好かれるええモン持ってる。ヤクザやのうても、充分生きていけんねん」
話は終わったと言わんばかりに、おやっさんは鉄板へ生地を流し入れ始めた。
「あと……………こないな事も言うてたな…………」
「こないな事……………………?」
「今の極道は荒んどる。でも、お前なら変えられるんやとな…………そんな男に、自分は初めて会うたて」
「え……………………」
初めて。
自分から見て、もう出来上がったように思えた、粋なヤクザ、木瀬。
日本一の竜童会で、確実に地位を築いているであろう男でも、変えられないと言うのか。
「まぁ……………穏やかに真摯に話してくれたんが、まだ救いやで」
商店街が、今より賑わっていた頃からヤクザを見てきたおやっさんにも、木瀬は文句なしに良い男として映っていた。
逆にそれが、竜也にとっては余計に印象深く残るものとなる。
あれほどのヤクザに、自分はどう見えたんだ。
黒い世界を、変えられるなんて………………。
嘘か真か。
これまで悪さばかりの毎日に、何かズシンと打ち付ける。
ただの悪ガキだろ。
俺が変えるって、何やねん。
「おやっさん…………………悪りィ…………俺、ちょっと」
そう言った時には、既に店の外。
「おいっ……………竜ぅっ!!」
おやっさんの声も、最早聞こえなかった。
足が勝手に前へ行く。
話がしたい。
木瀬と話がしたいと思った。
数十メートル先に見える、あの背中。
「木瀬さん…………………っ!!」
木瀬さん。
初めてのそれは、意外にも悪くない響きだった。
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