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絆
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相手を想い、相手に想われる。
ずっと、そうして来た。
「竜童会に入る……………!?」
夕焼け空が、世界を茜色に染める。
蝉の声がまだ辺りに響く、暑い夏の日。
地元で、古くからある喫茶店では、一際大きな声が店内を埋めた。
「お前……………………前からアホやとは思うてたけど、心底どアホやなっ!!」
ガシャン………………………
荒々しく置かれたアイスコーヒーのグラスから、小さくなった氷が飛び出す。
かれこれ一時間。
なかなか進まなかった会話が動き出した途端、竜也の前に座っていた京之介はキレた。
心底どアホやなっ!!
渾身の叫び。
事の始まりは、今朝の竜也からの電話。
『話したい事あんねん……………』
いつもより少しだけ低く、やたらと長い間。
ろくな話じゃない。
こんな時の竜也は、いつもろくな話をしない。
京之介は、ピンときた。
あのヤクザの話だ、と。
案の定、ろくな話じゃなかった。
『俺………………木瀬さん、信じるわ』
っざけんな!!!
「ヤクザやぞ………………その辺のヤンキーやチンピラとは、ヤバい程度が違うんやぞ!マシな人生終えへんかもしれん世界入って、何が救われんなっ。泣き見るんが関の山やっ!」
顔色一つ変えず、自分の怒りを受け止める竜也に、益々腹が立つ。
わかってる。
竜也は、もう腹をくくってる。
自分と同じ様に、竜也も頑固だ。
今更何を言っても、それが変わることはないんだ。
なのに、口からは苛立ちばかりがついて出る。
幸せにしてやりたい。
守ってやりたい。
ずっと、一緒にいたい。
竜也に出会った時から、京之介はそう思ってきた。
それが、自分とは真逆の道を進むと言う。
何で、通じへんねん…………………。
悔しくて悔しくて、握ったグラスのコーヒーを、竜也の顔へとぶっかけてやりたい気分だ。
「すまん……………………お前が怒るん、わかってた」
「ぁあ………………っ!?」
「わかってたけど、木瀬さんの想いも突き刺さってしもうた」
「竜也…………………っ!!」
まるで、木瀬に負けたよう。
負けるか、俺が!
それだけは譲れない。
それだけは…………………。
「命を懸けて、俺を育ててくれるんやて……………」
「は……………………」
「あの目は、嘘やない」
「…………………………っ!」
本気は、本気を生む。
竜也の自分を見る目に、京之介は本気を知る。
たかが、ガキの戯言。
されど、戯言。
結構、マジにだってなる。
喧嘩とお馬鹿な毎日に、一筋の道が描かれたのだ。
竜也は、自分で自分の将来を見出だした。
色々な苦境を乗り越えて来た竜也が、自分で…………。
はぁ………………………
京之介は、小さく息を吐き捨てた。
今までの大変さを見てきたからこそ、それがどんな気持ちで出されたか、ウンザリする程理解出来る自分がいる。
長い人生、失敗の一つや二つはある。
…………………失敗したら、手を貸してやればいい。
出来る事をしてやろう。
眩しい程に輝く友に、京之介の腹も決まる。
「俺が、絶交や言うたらどないすんねん」
「お前は、絶交やなんて言わへんよ。俺の、たった一人の心友やからな」
心友。
どっから来んな、その自信………………。
ヤクザになろうと言う奴が、よくそんな台詞言える。
笑顔で答える竜也を見ながら、京之介は呆れたように口を開く。
「クソ……………………ナメたヤクザしたら、即ぶん殴ったるからな」
「安心せえ…………………必ず、天下獲ったるわ」
当たり前じゃ、ボケ。
「俺の忠告無視すんねやから、天下くらい獲ってしかるべきや」
「わ…………………出た、俺様京之介」
「うっせ、アホ」
実際、皆さんがご存知の通り、竜也は天下を獲る。
日本一の組に入り、5年目で若頭、それから僅か1年半で組長。
全て、自らの実力のみ。
化け物と言われた男の快進撃が始まる。
現在まで、それに勝るヤクザは現れていない。
そして、京之介もまた、竜也に負けない男へと仕上がりを見せる。
何もかも、竜也を支えてやる為にだ。
「なぁ、竜也…………1個だけ、頼みがあるんやけど」
「……………………頼み?」
「あのヤクザに、一度会わしてくれ」
「え………………………」
ガキはガキなりに、文句の一つも言ってやりたい。
窓から差し込む夕日が、京之介の茶色い髪を、より赤くしていく。
「俺の大事な心友頼むんや…………頭位、下げんとな」
誰が、下げるか。
夕日のように、それは燃え上がる。
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