アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
別れ道
-
手を伸ばしても届かない。
人生の別れ道。
「お前、木瀬さんと喧嘩する気やないよな?」
よく晴れた、雲一つない快晴の日。
竜也は、京之介を連れて、一駅先の街まで来ていた。
『あのヤクザに、一度会わせてくれ』
自分の将来を決めた竜也へ、京之介が言った言葉。
たかだか17歳の子供が、自らヤクザの幹部に会う。
普通の少年なら、怖くて尻込みするだろうが、それを京之介は真顔で言ってのけた。
心友の、なんと心強い存在か。
京之介ほどの友に出会う事は、もうきっとない。
口には出さないが、竜也にとって、京之介は益々かけがえのない友となった瞬間。
「頭下げるだけや言うたやろ……………」
自分達の街よりも、大きな街並み。
人も多く、高いビルも建ち並ぶ。
ここに、竜童会の本部はある。
「ホンマか………………それ……………」
駅前の商店で買ったアイスを口に入れ、素っ気なく答える京之介に、竜也は疑いの目を向けた。
多分、嘘だ。
「………………お前と、どんだけ一緒におる思うねん」
白々しく、辺りを見渡しながら歩いて行く京之介の背中を見つめ、竜也は昨夜の事を思い出す。
昨日の夜、竜也は木瀬に電話した。
勿論、京之介の言葉を伝える為に。
『あの………さ…………京が、あんたに会いたいって言うんやけど………………』
木瀬の気持ちを聞いてから、何度か電話はしていた二人。
それでも、自分からかけるのは初めて。
なんだか少し、緊張していた気がする。
『あの子が………………?』
会って話すより、電話で耳にする木瀬の声は、渋くて低い。
一言で言うなら、大人。
向こうから聞こえてくる声に、竜也は無意識に耳をすませた。
父親が生きていたら、こんな声なんだろうか?
早くに親を亡くした竜也には、木瀬との出会いは何もかもが新鮮に思えた。
『ぷっ………………なるほどな…………』
『はい…………………?』
そんな事はつゆ知らず、木瀬は格好いい大人を貫く。
まるで、わかっていたかの様な、電話口の余裕な笑い。
『俺も、心して会うわ』
『え…………………』
心して。
全部、お見通し。
木瀬の返事から、竜也はそう感じた。
「京…………………無茶すんなや」
「………………………あ?」
暑い日差しに照らされ、ぼんやり揺れるアスファルトを眺めながら、竜也は自分を心配する心友を気遣う。
僅か17歳で、ヤクザの道を選んだ、自分。
あれからあまり言わないが、京之介がその決断を今でも気に入ってないのは十分わかってる。
わかってるけど、友でいてくれる有り難さ。
縁を切られてしかるべきなのに。
「ありがとう……………………」
自分は、幸せ者だ。
家族がいなくても、血の繋がりの温かさを知らなくても、誰にも負けない友がいる。
それの絆は、時に親子の愛をも越えるのだ。
「アホか、お前…………………俺は、礼される事なんかしてへんわ。ただ………………」
ただ。
何かを言いかけて、京之介は口を閉ざした。
「京…………………」
竜也の声が、身体を突き抜ける。
いつも聞いていた、声。
それが、聞けなくなる事実。
住む世界が、変わってしまう。
毎日一緒にいたのに。
毎日喧嘩して、毎日馬鹿やって、毎日々……………。
「………………………隣におったのに」
「ん…………………?」
「何でもない………………」
寂しくないわけない。
寂しくないわけないじゃないか。
別れ道。
こんなに哀しいのは、祖父が亡くなった日以来だ。
「あ、木瀬さんや……………………」
暑い夏の日。
悪ガキ二人の見る目に、ビシッとスーツを着こなした木瀬が映る。
「今年の夏は、最悪な夏やで……………」
そう呟く京之介は、自分達を照らす太陽を睨み付けるように空を見上げた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 14