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半ば強引に同意を得て、ちょうど俺の胸くらいにある綺麗な黒髪に少し汗臭いタオルを乗せてやった。
彼はとても控えめに「ごめんなさい」と呟いて、俺の後ろをパタパタと少し駆け足でついてきた。
こういう時には「ありがとう」と言うもんだと教えてやりたかったが、いきなり説教じみたことを言うのもなんだか気が引けてやめた。
「ただいまーっと。母さん、バスタオル二枚ちょうだい! 」
玄関を開けそう言えば、母が慌ただしくやってくる。
「あら、可愛らしい子連れてぇ! ほら、あなたもおいで。びしょ濡れじゃないの」
上がり框に膝をついて、俺には見せたこともないような柔らかな笑みを浮かべて手招きをする。
けれど、少年は玄関の敷居すらも跨げないまま雨に濡れないギリギリのところから動かなかった。
「えーっと……あなた、お名前は? 」
いつもはずかずかと見知らぬ人にも話しかける母も、さすがにそれはできないようだった。
「……ゆき、や、って言、います……っ」
開け放たれたままの扉の外で騒ぐ土砂降りの雨に、かき消されてしまいそうな小さな声。
そして首から提げられていたケータイの画面に「雪弥」と打って見せてくれた。
「雪弥くん、か。俺は春彦。高校二年だよ」
「あ、あの、僕は十四歳……です。えっと、がっこ……」
驚愕の声をあげたのは俺たち親子だった。
「十四歳……」
そうは見えない小柄だからだ。小学生だと言われた方が驚かないだろう。
「この辺に住んでるの? 同じ中学だったりするなかな? 」
中学生活が楽しかった俺は雪弥に問うた。
「がっこ、ずっと行ってない……ちゅ、がくは、一回も……」
小さく首を振りながらそう言った。
“お母さんが制服を買ってくれなくて……”
静かに流れた涙とともに溢れたのはそんな言葉だった。
「いいわ、うちで匿ってあげる」
母はいつもの笑顔を見せた。
「でも……僕、死なな、と……、め、わくかけ……っ」
「いくらでも迷惑かけてちょうだい」
優しく伸ばされた母の手に、雪弥がそっと触れた。
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