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あの人は、綺麗だ。
俺だけの物だと思った事は一度も無い。
恋人という名前であの人を縛れる程、俺はあの人に想われてなどいない。
俺の何が良かったというのだろう。
俺の何を想って、好きだと言ってくれたのだろう。
あの頃も今もそれは分からないままで、これから先も分からないままだろう。
誰にも言えない関係だった。
ずっと好きで、恋人になって、もっと好きになった。
「本当に、好きだった…」
雨が降り出しそうな、今日もすっきりとしないそんな空だ。
「康太!!」
名前を呼ばれ振り返ると、こちらに向かって必死に走る人の姿が見えた。
「…康太、話しが、話しがしたい!」
俺の前に息を切らし立つその人は、やっぱり綺麗だった。
「先輩、合格おめでとうございます。もう会う事は殆どないでしょうが、離れていても応援しています」
大きな二重の目が真ん丸に見開かれ、そして涙が滲むのが見えた。
「…待って、くれ」
そして緩く首を振り俺の胸元を両手で握る。
「さようなら」
「嫌だ、頼む…」
俺は胸元の両手を握り、その手を離させた。
「真澄!何してんの?」
「おい、早くこっちに来いよ!」
目の前の人を呼ぶ人達が、俺達を不思議そうな顔で見ている。
「真澄、ねえ、行こうよ」
その声に反応する俺に、少し低い位置にある華奢な肩が揺れる。
「彼女さん、呼んでますよ。早く行ってください」
俺は背を向け歩き出した。
全てを隠し、無かった事にして、そうして過去にすらならないまま終わる。
ただ俺だけは覚えていたい。
だから、痛みも悲しみも、この想いも忘れない。
全部、俺だけのものだ。
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