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好きだから(kyhr)
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『……ん』
重い瞼をゆっくりと開くと、目の前には動いた拍子に画面がぱっと明るくなったどアップのパソコン画面。動画を上げた後すぐに次の動画の編集をしていたのだがいつの間にか寝てしまっていたようだ。
編集をしていた時は他のメンバーもパソコンを弄っていたのだが、もう皆帰って寝ているのだろう、4人分のパソコンが常備された部屋の電気は消されおれにはタオルケットが掛けられていた。誰かは知らないけど、こういう時は皆優しい。
『…明日の朝、やればいいか』
パソコン画面のデジタル時計を確認すると午前2時20分を指そうとしていた。もうパソコンを弄る気も失せて、編集したデータを保存だけしてシャットダウンさせる。
『…喉渇いた…』
丁度買ってきたお茶を冷蔵庫の中に入れてあったのを思い出して部屋を出ると、急に視界が明るくなり何度か瞬きをする。
誰か、起きてる…?
「あ、起きたか」
『…キヨ?寝てなかったの』
「ん、てか他の2人帰っちゃったけど。ヒラはこのまま泊まるだろ?」
『…うん』
答えながら冷蔵庫の中のお茶を取り出してひと口だけ口に含むと、冷たさのせいか段々と目が覚めてきた。もう、寝てしまいたいんだけれど。
『キヨは…寝ないでなにしてたの?』
「ゲームしたりスマホ弄ったり、眠くなるのを待ってた」
『…眠くならなかったの?』
「全ッ然」
そう言うキヨの周りには携帯ゲーム機と枕とアイマスクと…確かに寝ようとした形跡は残っている。深夜に実況を撮ることもあったし、寝るのは朝になってからってことも少なくはなかった。彼の夜に眠れないという原因のひとつは、多分それだろう。
『大丈夫…?』
「平気だって、もう慣れたし」
『でも…』
最近何日か泊まることが増えてきたけれど、彼が寝ているのをほとんど見たことがない。おれと一緒の時間に寝ているだけなのか。
「…ヒラにまで心配掛けてんだな、俺って」
『そりゃあ心配するよ、キヨだもん』
「はは、ごめん」
情けないな、と彼は弱々しく笑う。やっぱりキヨはここ最近寝ていないんだ。そう考えると胸が痛んだ。どうにかしてあげたくても、おれに眠らせてあげる力なんてない。今から生活リズムを整えるとしても、たった今どうにかできる問題ではない。
おれはいつもキヨに助けてもらっているのに、なんにも返せていない。こういう時くらい役に立ちたいのに。
『キヨ…、…』
「…え?ちょ…なに泣いてんだよ」
俺なんかした?と急に焦り始め、背中をとんとんとあやす様に優しく叩いて。その反応は優しすぎて、余計に泣いてしまいたくなったけれど、おれは首を横に振る。
『ちが…、ごめん、おれ…キヨの力になれなくて』
「…え?」
『だって、キヨが眠れないのに、おれだけ寝てて…』
「自分の睡眠時間削ってまで俺に構うとかほんとお人好し過ぎかお前、いい奴なのはわかってっから寝ろよ」
『…それじゃ、キヨが…』
「あのな、いつもいつもいい奴だと損することくらい気が付けよ。いつかお前が潰れるぞ」
『…そん、な』
口調は優しいけど、それでいて親が子供に諭す様に言うから。キヨが真剣なのが伝わってきて、それ以上は何も言えなくなった。
キヨのことが好きだから。
大好きだから心配だなんて。
おれはただ嗚咽を堪えながら瞳からぽろぽろと溢れるそれを零していた。
その様子に見かねたのかキヨの手が涙を拭った。
「…じゃあ一緒に寝る?」
『…へ、…ぇ』
「そんな顔させてたら、こっちだって心配になって眠れないっつーの」
そう言って彼は2脚あるソファをくっつけてギリギリ2人が寝られる状態にした。先にソファに寝転がりぽんぽんと、ソファを叩いておれの名前を呼ぶ。
隣に、それもこんな近くに寝てもいいんだろうか。嫌がっている様子はないものの、彼からしたら仕方なくという感じだろう。1度は首を横に振るけれど、彼は「拒否権ないから」と強い口調で言うので申し訳ないなと思いながら、渋々ソファに仰向けになる。
『…キヨ…』
「…おいで」
『…えっ?』
突然のことで躊躇しているとおれの否応なしに抱き寄せられ、胸に顔を埋める形になった。
「もっと寄れよ、そっち狭いだろ」
『…う、ん』
その低い声も、息遣いも鼓動も、何もかもが近くて。思わず彼へ自分の想いを吐露しそうになるけれど、どうにか仕舞い込む。
キヨはおれが心配だから一緒にいてくれているだけ。自分が罪悪感を感じない為に、こうしているだけ。それ以外有り得ないと必死に自分に言い聞かせた。
期待なんてしないって思ってたのに。
どうしてキヨはこんなことをするんだろう。
『キヨ…そんなにくっつかなくても、』
「嫌だったら、離れてもいいんだぞ」
『…なにそれ、大体…嫌々やってくれてるのはキヨの方じゃ…っ』
不意に額に柔らかい感触。それと同時に目を瞑った。
再び目を開けると、まるでおれの気持ちは全てお見通しかの様な悪戯っぽい笑みを浮かべた彼がそこにいて。
『な…なに、して…、だって、キヨは…おれのことなんか、』
好きじゃない、そう言おうとしたところで唇で唇を塞がれる。ほんの数秒の間なのに、とてつもなく長く感じていた。
やがてゆっくりと唇が離される。口付けで麻痺してしまった脳では、何も考えることができなかったけれど、朱に染まった彼の顔を見たら今のこの状況も彼の気持ちも、ばかなおれでも理解できた。
「残念だったな、大好きだよ」
ぷつりと、自分の中で何かが切れた音がした。
キヨの気持ちはすごく嬉しいけれど、これに応えてしまったらもうただの''友達''には後戻りができなくなることは確信していた。
これから大きな困難が待ち受けているかもしれない。周りから酷く軽蔑されるかもしれない。
それでもおれは、溢れ出す自分の想いを伝えずにはいられなかった。
彼の手を握り小さな声で、でもはっきりと彼には届いただろう。
『おれも…、大好き』
end
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後半部分が全て消えるというアクシデントがありましたが…本当に申し訳ございません(汗)
ここまで読んでくださりありがとうございます、それではまた次のお話で。
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