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ちぎり、ちぎり(7/21)
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「達希……」
いや、我は信じる……あの小僧のことを。
"きっと"何かがあって、"どうしても"来ることが出来なかったのだ。
そう、"きっと"──。
再び桜色の花びらが舞う季節が訪れた。
来ない……"きっと"何かがあって……。
照りつく陽の中、蝉が懸命に鳴き続ける、夏。
来ない……"どうしても"外せない用があり、来る事ができないだけだろう……。
色鮮やかな紅葉が山を彩る、秋。
来ない……風邪をこじらせてしまったのだろうな、"きっと"……。
寒空から真っ白い雪が舞い落ちてくる冬。
来ない……だが、来年の春は"きっと"訪れに……。
待ち続けて再び巡ってきた、春。
来ない……"きっと"夏には……。
夏。
来ない……いや、"きっと"流星群が見える頃には……。
秋。
来ない……今度こそ、冬になったら"きっと"訪れに……。
そして、冬。
達希は来ない……。
小祠の縁に座り、参拝者の通り道である階段の下をじっと見下ろす。
達希……まだなのか?
髪の毛や肩に、しっとりした雪がどんどん積もり、我の体温を奪っていく。
我は化け狐の身だ、寒さには強い。
それなのに、我の心はひんやりと凍えていて、寒い……心細い……。
早く…春よ、巡ってこい。
我の心を温めてくれ……達希。
季節が巡り再び、春。
来ない……まだなのか、達希……。
夏。
来ない……"きっと"秋には……。
秋。
来ない……、"きっと"……。
そして、冬。
来ない………………。
もう、己に暗示をかける気力さえ残ってはいなかった。
それでも毎日、大木の表面に印を刻んでいく。
ただ、黙々と引っ掻き傷をつけていく日々。
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