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ちぎり、ちぎり(8/21)
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達希が我の前から姿を消した日から、季節が三度巡った。
再び訪れた、春。
珍しく、参拝客がやってきた。
老女と、……達希の母だった。
「悪いわね、手伝ってもらっちゃって」
「いいんだよ、優香さん。貴女のお母さんとは、時々こうやって一緒に掃除しに来たものさ」
聞いたところ、老女は達希の祖母の友であり、小僧の母と二人で荒れかけた小祠に手入れをしに来たようだ。
二人は大人……すぐ近くにいるのに、我の姿など全く見えていない。
「そういやぁ、最近優香さんのとこのぼっちゃん、見てないねぇ。」
「?あ、達希のことね」
「あぁ。元気にしてるかい?」
突然我の耳に入ってきた、懐かしい人の名。
ずっと恋い焦がれていた、待ち人の名だ。
小僧の母をじっと見つめる。達希、達希は今、どうしているのだ。
「元気にしてるわよ。最近すっかり色気づいちゃって」
「前に見たときは、もう大人の体だったからねぇ、たっちゃんは。好きな人でも出来たのかえ?」
「ふふ、どうかしら」
「前は頻繁にこの村に来てたのにねぇ。また来ないのかい?」
「私のお母さんが死んじゃってからは、ここに来る理由が無くなったからなのか、"行きたくない"って。
来たとしても、お母さんの家の掃除の手伝いをさせられるだけだから嫌なんだと思うわ」
「寂しいねぇ……たっちゃんの顔を久しぶりに見てみたいものだよ」
「伝えておくわ」
……二人の後半の会話が、我の耳に入ってくることはなかった。
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