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ちぎり、ちぎり(9/21)
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達希は元気にしていた……そして、恋人がいるようで、……ここに来る用はない、行きたくないと……。
"きっと"何かがあり、"どうしても"この山へ来ることが出来なかったのではない。
達希は……我と会いたいと思っていなかったのだ……。
放心状態で頂上付近にある大木の元へ歩んでいく。
おびただしい数の"正"の印。
いつも通り、その大木に腕をのばす……が、己の指は傷を刻む事なくおりてしまった。
もう、引っ掻き傷をつける気力はどこにもなかったのだ。
狐面を外し、桜色の花びらが舞う青空を仰ぎ見る。
我が生まれたときから変わらぬ、空と山、そして温かい陽の光。
自然と、目尻から涙が零れ落ちた。
「…ふ……っ、く…うぅ…っ」
ずっと、認めたくなかった……。
裏切られたんだと、思いたくなかった。
ずっとずっと、己に嘘をつき信じようとしていた。
達希は……達希だけは、我を裏切っていないと。
「う"……っ、ぐ…ッ、ゥウ"…っ!」
全身の妖の血が騒ぎだし、体が変化していく。
指先には鋭い爪が、頭部には狐の耳が生えだし、己の頬を髭の紋様が蝕んでいく。
だから言っただろう?
"ヒトの子は皆、我を裏切り忘れていく"と。
己がそう、言っていたではないか。
何度も何度も、"信じては裏切られ"を繰り返してきた。
所詮は化け狐の身……こうなることが分かっていただろうに。
「……ぅ…っ、達…希…………っ」
頬を流れる涙は際限なく、瞳から次々と溢れ出てくる。
あの太陽のような笑顔は、もう無い。
達希は、もう我のものではない。
我は……初めから独りだったのだ……。
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