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ちぎり、ちぎり(11/21)
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……達希がここへ訪れる可能性は少ない。
だが、母親が亡くなればこの山を管理するのは達希になる。
その頃になれば、達希は子供の心を失い、我の姿が見えなくなっているだろう。
それなら…………。
「達希の……子」
そう、達希の子を喰らう。
愛する者を失くす辛さを達希に味わわせる……我の憎しみの念を晴らすのと釣りあうだろう。
あと何十年か待てば、我の願いが叶う。
季節よ……早く巡ってくれ。
──願いが叶う日は、意外に近かった。
喰い殺すと決めた一年後の春、達希がこの山に訪れてきたから……。
ある日の夕暮れ方、小祠へと続く階段を登るヒトの気配を感じた。
生い茂る木々の間から顔を出し、そっと様子をうかがう。
そこには、達希と達希の母がいた。
何故……?
その疑問は、二人の会話により解かれた。
「かーちゃん、小祠の掃除は俺一人で十分だから。ばーちゃん家で休んでていいよ」
「そう……?
明日、親戚のお婆さんに顔見せなさいね。会いたがっていたから」
「分かった。夜空見たいから帰るの少し遅くなるかもしんない。だからかーちゃんは先に寝てて」
「もう…!早く帰ってくるのよ」
「うん!おやすみ、かーちゃん。とーちゃんにも伝えといて」
達希はそう言うと、溜息をつく母親に背を向けて階段を駆け上がっていった。
鼻歌交じりに小祠の中に溜まっていた埃をほうきで掃きだしていく達希。
その左手の薬指には、銀色に輝く輪が嵌められていた。
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