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別れ・想い人に懸けるもの(10/16)
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……白の姿を頭に思い浮かべながら、重い足取りで病院の入り口へと歩を進める。
突如、聞き慣れた声が院内の廊下に響き渡った。
「達希……!」
「……かーちゃん…」
涙を流しながら駆け寄ってくる母が、俺にぎゅっと抱きついてくる。
久しぶりだな……かーちゃんが泣いてるとこ見るの。ばーちゃんの時以来だろうか…。
「心配したのよ……!もう…っ、無事で…良かった……」
「……ごめんな、かーちゃん…」
そっと、かーちゃんの背中に腕を回す。
生きたい……生きたいな、やっぱ。
大事な人達を泣かせたくない…悲しませたくない。
けれど、現実は残酷で……。
俺の容体は日増しに悪化していく。
闘病生活を始めてから夏が過ぎ、秋が訪れようとしていた…。
「達希、服着替えさせるわね」
「ん……」
体を思うように動かせなくなった俺を、付き添いで介護するかーちゃん。
やつれたその顔を見る度、胸が苦しくなる。
本当なら……いつか俺がかーちゃんを介護しなきゃならねーのに。
抗癌剤を投薬する事も、もう無くなった……。
できないほど体が衰弱しているんだ…。
吐いてばかりで食べることができないため、点滴で栄養分を摂取する日々。
体重も落ち、苦しくてろくに睡眠をとる事もできない。
俺、そろそろ死ぬのかな。
目を閉じ、想起する……白との幸せな思い出を。
重い腕を持ち上げ、左手の薬指にある指輪にキスをする。
…会いたい。会いたいよ、白……。
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